チャプター0-1 オープニング

blueblood
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視界の隅を廃棄されたビルが流れていく。崩れ朽ちたその欠片は、普段であれば目にする者に人類の愚かさ、無力さを想起させる。しかしながら、第三世代吸血騎『芒月ぼうげつ』 のコフィンに座る女は、全く別の事を考えていた。
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芒月:今作の主役機体、全長3.0m、本体重量770kgと設定した。このサイズは人間が普通に利用する施設にギリギリ侵入できるぐらいのサイズと考えての設定。
コフィン:棺桶という意味だが、コックピットだと思ってもらって構わない。別に吸血騎が動く棺桶という意味ではない。むしろ強度は相当に高い。

(この速さ、運動性能、火力、どれを取っても今までとは桁違い。全く凄い物を作ってきたものね。マナが自慢するだけあるわ)

集中は正面モニターに割きつつも、 思考はこの最新型の性能に寄ってしまう。パイロットにとって高性能な機体への憧れは半ば本能のようなものだ。この性能を持つ『吸血騎きゅうけつき』が量産され、十分な練度を持ったパイロットの養成が成った暁には、地上に蔓延り人類を脅かす『結晶獣けっしょうじゅう』を一匹残さず根絶やしにすることも可能だろう。そう確信できるほどの性能を芒月は持っていた。
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吸血騎:コフィン内のパイロットと血流接続を行い動作する。全長は3~7mが基本となり、接続に適合する人間こそ少ないものの、現在の人類を守り、結晶獣に対抗できる数少ない戦力の一つ
結晶獣:人類を脅かす存在。人間の血液を原料に作られている事、完全に自立した兵器だという事以外に判っていることはほとんど存在しない。

「それにしても凄い性能ですね、加速も運動性も第二世代とは全くの別次元だ。後はこいつを操るパイロット次第、ですけど。こんな無茶苦茶な機動、そんなに長く続けられるものじゃないでしょ」
「どうしたのシルバーグラス2、泣き言?あんたもテストパイロットならこの程度は付いてきなさいよ。今回は接続負荷もかかってないんだから、文句言わずについてきなさい」//

吸血騎の世代分類:第一世代の吸血騎は四脚型でサイズが現行型に比較して二倍近く大きかった。第二世代機は人型かつ小型化が進み、第三世代機はさらなるダウンサイジングおよび可変機構の搭載などがなされている。兵器の大型化は強そうに見えるかもしれないが、実際にはイメージだけでさほどメリットは存在しない。


サブモニターに不満げな顔を浮かべる僚機、シルバーグラス2の抗議を黙らせ、芒月を加速させる。今までの第二世代機であれば眼前に流れていく廃ビルを障害物として使い、射線を切りながら目的地点に向かうのがセオリーだ。機動力は全てを有利に運ぶ。このように、敵を強引に振り切りながら僚機と冗談を飛ばし合う程度には、だ。最も、シルバーグラス2の泣き言は別に冗談というわけでもなさそうだったが。

 コックピットに差し込んだPDFを操作し、目的地点までの距離を確認する。巡行形態に変形したうえで長距離航行用装備へ換装したこの新型の機動力から逆算すれば、あと60秒程度でたどり着けるはずだった。//

PDF:パーソナルデータフレーム、現実世界におけるPDA(パーソナルデータアシスタント、携帯情報端末)の発展したものと考えてもらいたい。各種兵器の個人認証や身分証明にも使用する。
巡行形態:先述のように第三世代は可変機構を搭載しているが、可変状態で長距離航行用装備を装着することにより揚力を得て航行距離を延ばすことができる。可変機構はメンテナンス性やコスト面など様々なデメリットを抱えるが、戦況に応じて最適な形態を取ることが可能であることなどから採用した。

「それにしてもこの機体、高性能なのはわかりましたけど本当に実戦に投入できるんですかね?今回はともかくとして、パイロットの制御負荷や加速負荷もあるし、ジェネレーターの冷却率とか機体フレームそのものの強度とか保たないんじゃないですか?第一これで本当に空が飛べるとはとても思えないんですけれども」
「技術系じゃないアタシにそんなこと聞かれても答えられるわけないでしょ、というかそういうのはそっちの専門じゃないの、シミュレーターのほうでも警告出てないんだし、後はもう試してみるしかないじゃない。どんなに無茶苦茶に思える装備でも使いこなし、データを持って帰る。それがテストパイロットのお仕事、わかった?」
「了解了解、今やることは機体の性能談義でも愚痴のこぼし合いでもないって事ですね。集中します。―――予定地点まで残り20秒!」
「シルバーグラスリーダー了解、あとは作戦通り、キッチリ決めてくよ。カウント3、2、1、GO!」//

空が飛べるとは思えない:この世界においては固定翼機の技術は失われている。また、鳥類はほとんど飛行しないニワトリなどの家畜を除いて絶滅しているため、飛行を行うのは滑空する結晶獣のみ。第二世代機は推力に任せて強引に飛んだり、ワイヤーを用いて遠心力で飛ぶことは可能ではあるが、飛行というよりは跳躍に近い。

2機が同時に長距離航行装備をパージし、芒月を通常形態に戻す。対減速衝撃に身構えたシルバーグラス2がモニターの隅に映し出される。今回の状況でこんなことする道理は全くないというのに。後でからかってやろうと思いつつも、芒月を着地態勢に油断なく制御する。機体をスライディングさせつつ、仕掛けを打っていたポイント、あらかじめ運び込んであった兵装コンテナから右手でライフル、左手で90番口径ランチャーを引き抜くき、同時に跳躍動作に移る。

弾!弾!弾!

その刹那、数瞬前まで自機がいた地面を弾丸バレット型結晶獣が貫く。素早い跳躍回避がなければ、穴が開いていたのは自機のコフィンのほうだっただろう。しかし、弾丸型の最大の弱点を突く絶好の機会でもある。素早く左手のキーボードを叩き弾種を選択。
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キーボード:左右分割型、この描写がしたくてわざわざ自作キーボードに手を出した。

散弾、装填、照準、集中ーーー射撃!

跳躍前転からこの動作を淀みなくこなし―――自然と笑みが零れてくるのを感じる。打撃力、運動性、照準精度、どれを取っても期待以上だ。不安定な姿勢からの射撃でも全くブレが無い。牽制で放った弾丸だけで、この機体のポテンシャルを確かに感じ取る。

前転回避から着地し、素早く機体を振り向かせる。索敵、敵結晶獣頭脳ブレイン型、3、正面から倒すのは困難だ。右手のライフルを乱射して制圧射撃、機体を廃ビルの陰に滑り込ませる。

「シルバーグラス2、支援位置に到着。機動を支援します」
放電硬化ワイヤーでスイングバイ機動をかけ、ビルの屋上に着地した僚機が弾幕を張る。屋上に設置しておいたコンテナの中身、20番口径支援砲を組み立てが済んだようだった。継続火力こそ優れるが、機動力を損なうために持ち運んでの運用は限られる。芒月の機動性を保つためにはこの戦術が良いだろうと考えていたが、事はうまく運んだようだ。
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支援:よく映画で「援護してくれ!」なんてセリフよく聞くと思いますが、これは当てなくても弾幕を張る事で敵が顔を出せないようにしてその間に移動する、という意味。制圧射撃と言ったりもする。当てるだけが戦闘じゃないという事です。これを目的とした銃は、分隊支援火器とも。

「シルバーグラスリーダー機動完了、一旦下がれ!」
右半身だけを乗り出して弾倉の残りをバラ撒きつつ、左手の90番を腰の武装担架に戻して弾種を徹甲弾に変更。

GACHN!

右手のライフルの弾倉が空になったのを確認し、位置情報ビーコンを起動させて投棄する。PDAでシルバーグラス2の位置を確認、射撃位置変更が済んだのを見てから突撃を掛ける。まずは最も近い頭脳型から―――//

位置情報ビーコン:武装を投棄した際に、回収部隊が迷子にならないために設定する。GPSは存在しないため、起動した位置からの吸血騎の移動量から位置を特定するもので、必ずしも正確とは限らない。現実のカーナビなどはGPSのデータと走行パラメータの二つから位置を特定している。

DANG!DANG!

2発を中心に叩き込む。直撃弾を受けた頭脳型が砕け散り、深紅の体液をバラ撒く!
素早く腰からディフェンスブレードを引き抜き、二体目の頭脳型へと距離を詰める。頭上から振り降ろされる刀刃ブレード型をブレードで弾く―――

GYAAAA!!!DANG!DANG!

2体目の頭脳型も沈黙、刀刃型も同時に砕け散り液化!3体目の頭脳型の位置を確認、距離が若干離れて、紅く光を放っているのが見える。光撃レーザーまで残り2秒といった所か。シルバーグラス2の支援は……間に合わない。状況を判断して身を隠す。

閃!
DANGDANGDANGDANG!

光撃が空気を灼くのとほぼ同時に、シルバーグラス2の弾丸が放たれる。弾丸は貫通こそしていないものの、姿勢を崩す程度は出来たようだ。

「援護射撃、2秒遅いよ!状況しっかりよく見る!」
「すみません!抑えながら第2地点まで後退でいいですか!?」
「オーケー、その判断は正解!」//

援護射撃2秒遅い:エヴァのパロディです。パロディって分かる人には分かる、が重要だとは思いますが、分からない人にとっては面白くないので、基本的には全部解説入れるようにしたいと思います。

部下を叱責と同時に褒めてやりつつ、地形情報を確認する。この不意打ちで2体を食えた。数の優位を保っている今こそ、慎重に、基本に忠実に後退する。焦らず、音を立てず、気配を殺して。
ここはさすがにシルバーグラス2も心得ているようだ。通信を送るまでもなく、廃ビルを有効に使い射線を切って移動する。さて、この後はどう仕留めに行くか……

次回、チャプター0-2 シミュレーション
ご期待ください。

MaEm

コメント

  1. あーてぃ より:

    取り急ぎ誤字脱字を。
    『目的地店』→『目的地点』

    チャプター0 2話まで読了しましたが、情報公開ロックが解除されません(´;ω;`)

    • doubleslash より:

      誤字報告ありがとうございます、情報公開ですが、「トップページ」→「PDF」→「任意のカテゴリ」の中に入ってください。「チャプター●読了で~」クリックすると開くようになっています。

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