//前回 チャプター2-3 シェルター・09
TAN TAN ……TAN!
緩急を付けた左右の三連打撃、最初の二発は後退、両腕で捌きながら回避し、最後の踏み込んだ一撃を掻い潜って腕の外側に芒月を回り込ませる。無防備な背中側から、上下防御と前進噴射を同時入力。
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「はあぁッ!」
「見えてらぁ!」
渾身の二連同時打撃を、即座に反転したシルバーグラス3が受け止める。同時に後退噴射を一瞬掛け、打突の勢いを完全に殺される。
「そして姿勢を崩したところに、これでどうだ!」
「ぐうっ!まだです!」
CACHACACHACAHCA!
右足刀と左手刀の同時攻撃が襲い掛かってくる。この場合なら一度後退噴射を掛け、左右の防御姿勢を同時に入力して……
GANG、GANG!
「はーい、そこまで。足刀の方は反応は出来てたけど、左手刀が胸部装甲直撃判定。シルバーグラス3の勝ちー。今のはアタシだったら防御しないで逆にこちらから距離を詰めて、左下に潜り込むかな。回避したら不安定になった左脚を蹴って、バランスを崩す。あとは煮るなり焼くなりって所で。それじゃあ二人とも、一旦戻ってきてちょうだい」
「シルバーグラス3了解、帰投します!」
「シルバーグラス4了解……」
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昨日は実機演習と机上講習の後に解散して、夕食後に就寝。今朝は命綱を付けて第一層を上下に上り下りしてから朝食。昨日とほぼ同じ内容だった。
「レウン君、これ昨日と建物の配置変わってませんか?」
「変わってるっていうか……全く別物じゃない?何なら正面のあのビル、現在進行形でこっち近づいてきてるし」
3つ並んだ電磁砲塔がこちらに向かって少しずつ動いてくるのが見えた。動いているビルに乗ると、最悪の場合第四層まで降ろされかねない。とすると、あれに近づくのは止めた方が良いだろう。
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「それにしても朝からコレって、一体何の意味があるのかねぇ?俺としてはこんな事してるよりも、とにかくもっと沢山吸血騎に乗せてもらいたいんだけども」
「うーん、まあ体力付けておけ、って事なんじゃないですか?実際、朝からやるには結構な運動ですしね」
「そりゃあそうだけど……これ吸血騎の操縦技術に関係ないでしょ?」
「まあ確かに、そう言われたらそうなんですけど……」
梯子を下りながらレウンがぼやく。周囲を見回して、次のルートを考える。あの橋を渡って向こう側の梯子で下に……いや、ちょうど橋そのものが動き出した。それなら一度反対側に回って階段を使った方が良いか。着地しつつ、頭と体を使って最適なルートを考えた。
くぅぅ。
……赤面。
「……あー、何だ。ハラ減ったよね。さっさと降りて朝飯食おうぜ?」
「えっと……はい」
仕方ないじゃないですか。朝からの全身運動と、目まぐるしく変わる状況の判断力。お腹がすくに決まっています。流石に、お腹の減った音を聞かれるのは恥ずかしかった。
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「さてと、今日は二人には昨日の続きで機動制御訓練、それから近接戦闘訓練をやってもらう。今日は俺も燕柳に乗るから、うちの部隊全員でどつき合いってわけだね。あれ見てくれる?」
サシバ少尉の後ろのトラックには、燕柳が二機と芒月が二機。だが、昨日までとは若干様子が違っていた。手足の先端部と胴体装甲を覆うように、黄色と黒の板が張り付けられていた。
「訓練用対衝装甲。訓練で高価な吸血騎ぶっ壊したり、乗ってる人間に怪我させるわけにも行かないからさ、上からあれを被せてある。軟質素材で出来てて、打撃が当たっても衝撃吸収してくれるってわけだ。ついでに衝撃を感知するシステムも内蔵されていて、打撃の位置や速度なんかも解析してくれる」
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「あれって訓練用なんですか?実戦でも付けといたら生存性上がりそうですけど……」
「いや、こちらの打撃の威力も吸収しちゃうし重量がかさんで動きが重くなる。格闘戦ってのは基本的に重量が重いほど威力が増すけど、重量を無駄に増やすよりも打撃速度自体を上げた方が威力向上には効いてくるんだ。運動エネルギーの計算式くらい聞いたことあるだろ?」
「ええっと、アレですよね。二分の一掛ける……」
「1/2mv^2ですね。速度は二乗で効くから、重くするより速くする方が良いという事ですか?」
「シラハ二訓、正解。学校の授業もちゃんと聞いとくもんだろ?速度が同じなら重量がある方が打撃の威力は上がるけど、小型軽量化して速度上げられるならそっちの方が良いって事だ」
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「後は、第2世代機以降の設計思想によるものが大きいかな。第1世代機は重装甲で攻撃を防ぐように作られているんだけど、燕柳や芒月は軽量化して回避することを前提にしているから、余計な追加装甲付けるのはそもそもの機体特性に噛み合っていないってわけ」
「マナ、積み込みもう終わったの?」
「えぇ、後は運ぶだけ。それにしても二人とも、昨日はお疲れ様!お陰で色々と貴重なデータが手に入ったよ」
データ?レウンとふたりで首を傾げる。昨日やったことといえば、私は前後左右にバタバタと走り回っただけ。レウンは頭から壁に突っ込んだぐらいだ。
「バランサー系の制御パラメーターとヒートコンデンサーのバランスの見直しと、吸血騎遣いの反応速度の記録、それに衝撃吸収姿勢に移行するまでの機体挙動にそれから……」
「あーはいはい、わかったから。というかこの二人にいきなりそんな事言っても半分も分からないから。悪いね、こいつ吸血騎の事になると人格変わるんだよ。それより、積み込み終わったんだろ?そろそろ行こうぜ、少佐が待ってる」
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「シルバーグラスリーダーよりフライト08、シルバーグラス全機リンク完了。待機する」
「フライト08了解です、記録はもう全部回してるのでいつ始めても構いませんよ」
「了解、マナは記録と一緒にバイタル系のチェックもよろしく。何かあったらすぐに報告で」
四機の吸血騎が演習場に並ぶ。芒月とリンクした私の視界からだと、縦にも横にも一回り大きい少佐たちの燕柳は見上げるような態勢になる。大きく重ければ良いというものではないと言っても、装甲の厚く頑丈そうなやはり燕柳の方が強そうに見えてしまう。
「さてと、昨日の続きから行こうか。ゆっくりで良いから昨日と同じように垂直跳躍、左右レバーは触らずに腰に意識を集中して踏み込む。やってみ」
「あの少佐、質問良いでしょうか?」
「ん?なんだ、コツでも聞きたいの?」
「いえ、なんで操縦するのに意識を向けるなんて事をしないといけないのか気になりまして。機体を制御するなら、余計な所に気を回すより、スティックやペダルの操作に集中したほうが良いんじゃないですか?」
「ああ、それね。それについては午後の講義で俺から説明するよ、少し長くなる話だからね。まあ簡単に言うと、「吸血騎を自分の身体の一部だと思う」がコツかな」
ふむふむ、正直全く理解できないが、習うよりも慣れろという事だろうか。言われた通りに、まずは自分の腰と芒月の腰に意識を向けてみる。両手の力は抜き、左右ペダルを同時に踏み込む……
QUI……
HUU!!!
「……っと、これでどうですか?」
「おっ、シラハ良い感じ。それじゃあその高度を維持したまま、右手側を操作して前後左右に移動」
コフィンに座っているのに、腰を誰かに引っ張られているような違和感と、浮遊状態の文字通り足腰が浮き立つような感覚。正直言って、まだ慣れそうにない。
「……っと、レウン君どうです?浮いてます?ってあれ?」
さっきまで隣に立っていたはずのシルバーグラス3が見当たらない。ヘッドセットにはかなり慌てた声が響いてきた。
「たぁぁぁぁっつつつつ!!!ととととと、こっちかぁっ!」
「オイオイこらちょっと!踏み込みすぎだ!一旦下ろせ!」
TANG、TANG、GRUUUUUU、TANG!!!
続いて少尉の怒鳴り声。そちらに目をやると、上空20m程にシルバーグラス3が見える。ビルの壁面を蹴り、側転。無理矢理姿勢を直そうとして、今度は空中で前転。最終的に、尻もちを付く形でビルの屋上に着地した。
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「へー、姿勢制御プログラムはかなりいい仕事してるじゃん。流石マナ、たった一晩であそこまでの物を書き上げるなんて」
「ちょっと少佐!感心してて良いんですか!?あれどう見ても墜落ですよね!?」
「まあ大丈夫だろ、直前に緩衝させるように噴射かけてたし装甲もあるし」
「とは言っても……中身のレウン君の方が大丈夫なんですか?」
「それも多分大丈夫、アタシ達の着ている装備はそんなヤワじゃないよ。第一、実戦だったらあれくらいの無茶な機動はやってもらわないと困るし」
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……あれを実際にやらないといけないのか。ますます気が重くなってきた。
次回、チャプター2-5 ムエタイ
ご期待ください
MaEm
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