チャプター0-2 シミュレーション

blueblood
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//前回 チャプター0-1 オープニング

「さて、この後の展開だけどお前ならどうする?」
「そうですね、数的有利をこちらが取っていて、なおかつ地形的にもこちらから仕掛けることのできる状況、とすれば背後を取っての射撃ですね。まずは隊長の90番で不意打ち、それで仕留められなければ援護しながら移動してもう1発、でどうでしょうか?」

 なるほど、この状況ならベストに近いといえる回答だ。少なくとも第2世代機であればこれ以上ない程、教科書通りの行動パターンと言えるだろう。教科書通りというのはあまりいいイメージで使われる言葉ではないが、教科書に載る戦術というのは無駄がなくあらゆる状況で最適に近いという意味でもある。

「オーケー、良い回答。だけど今回はちょっと別の事を試してみようと思ってね。マナからも説明受けたでしょ?ここは一つ、芒月ぼうげつの格闘性能を試してみようと思ってね」
「関節部の強化、でしたっけ?第2世代機の格闘はあくまで補助ですからね。もっとも、積極的に近接戦闘仕掛けて片っ端からブチ砕いて帰ってくる人もいますけど」
「良いじゃないの、壊さない程度のギリギリには負荷は抑えてるんだから」
「まったく、戦果上げるのは良いですけど誰がメンテすると思ってるんですか?フレーム腕から脚から全部オーバーホールするんですよ?」
「まあ今回は別にいいでしょ、メンテも必要ないしいくらぶっ壊しても構わないんだから」
「わかりましたよ、でも今回だけにしてくださいね?」//

第2世代機でも近接戦闘は考慮されているものの、フレームにかかる機械的負荷の大きさからあくまで補助的なものと設定されている。第3世代機は設計の時点で近接戦闘を積極的に行うことを想定している。フレーム素材の技術的発展による恩恵。

許可は出た。右腰のホルスターからディフェンスブレードを引き抜き、斬撃パターンをいくつか連続実行させてみる。淀みのない動作、パターン割り込みとキャンセルもスムーズだ。//

斬撃パターン:人間が刃物を振ろうとする場合、同じ縦斬りでも角度や振り始めの位置などを毎回微妙に調整する。しかし吸血騎の場合にはそういった細かい操作を行うのは困難なため、有用なパターンをいくつか設定しておき、状況に応じてそのパターンを再生するというシステムとなっている。特定の連続攻撃パターンの最中に別のパターンを再生することを割り込み、再生を即時中断することをキャンセルと呼ぶ。これらの動作での強引な割込みは姿勢バランスが一時的に崩れるため、制御プログラム側で吸収するか吸血騎遣いが無理矢理引き起こすかのどちらかとなる。

「本当はパターン斬撃じゃなくて、狙った部位にその場その場に合わせた斬撃が出せればいいんだけどね」
「冗談じゃないですよ、ハード側でもソフト側でももう目一杯なんですから。これ以上無茶な駆動させたら腕が千切れます」
「それは第2世代機の話でしょ?その内そういうパターン斬撃以外もできるプログラムマナに組んでもらいたいのよ」
「まあ有用性は分かりますけどね、そもそもリスクの高い近接戦闘にそこまでのリソース割く余裕がありますかね?」
「まあ今後の実戦データ次第かな、テスト終了。そろそろ行くよ」
//

この手の小説では銃より剣の方が強いことも多いが、この世界では基本的に銃は剣よりも強し。今回わざわざリスクを取って格闘戦を仕掛けているのは性能試験のためであり、普段ならシルバーグラスリーダーも教科書通りの戦術を取ることだろう。

左腕の90番の残弾を確認、散弾・徹甲弾各4発フルリロード、2マグ。残り一体を仕留めるならばこれで十分だ。散弾を選択する。シルバーグラス2も20番の弾倉と銃身冷却率を確認したようだ。
//

銃身冷却率:吸血騎用の銃は撃てば撃つほど銃身が冷却される。この辺の設定は後々書いていくが、過度に銃身が冷却されると衝撃でヒビが入ったり銃身が歪んで命中精度が悪化したりする。

両腕の放電硬化ワイヤーを廃ビルの屋上に打ち込む。これも第二世代機からの改良点だ。背中に射出機の付いている今までの装備パターンよりも射出場所の自由度が高い。これも関節強度の強化の恩恵の一つだという。更に装備場所も前腕部に2発と腰部ホルスターに2発と、スイングバイ機動の際に役立つだろう。ワイヤーを引いて張力テンションを確認する。跳躍でも登れる高さではあるが、位置を特定されるのを避けるため静音性を重視した選択肢だ。左、右、左……高さにして約100m。ワイヤーの射程からすれば7回程度で登れるだろうかと目算で考える。//

放電硬化ワイヤー:液状で機体に充填されていて、水鉄砲のように射出される。液が垂れる前に電圧を掛けると硬化してワイヤー型の形状で保持される。更に回収して電圧を解くと液状に戻る夢のような素材。射程は短いが、一度固定すれば液を継ぎ足すことで伸ばしていける。もちろん実在はしない。

「シルバーグラスリーダー、位置に着いた。敵頭脳ブレイン型との距離700、向こうはまだこちらの位置を見失ったまま」
「シルバーグラス2了解、このまま接近して不意打ちで仕留めましょうか。距離を詰めたら援護するので上から仕掛けてください」
「話の分かる可愛い部下で嬉しいよ、完璧な回答だ」
「伊達に2年も振り回されてたワケじゃ無いですからね、何考えてるかくらいもうわかりますよ」
「さっきのは訂正、やっぱアンタ可愛くない」

ビルの屋上を静音モードで進んでいく。屋根伝いに身を低くしつつ、距離のある場所はワイヤーを使いつつ。シルバーグラス2も距離を空けつつ、ビルに身を隠しつつ移動する。やはり2年間様々な技術を叩きこんだ甲斐があった。動きに無駄がなく、かつ十分に索敵警戒がなされている。それも互いの死角を補うように、だ。直接戦闘の技術はまだまだだが、こういった基本がしっかりとこなせる僚機はありがたい。

「距離100、ここまで詰めれば十分に援護できます」
「敵の数は見える?ここからは頭脳型1、刀刃ブレード型4、塔盾シールド型2が見えるけど」
「それに加えて弾丸バレット型ですね、密度評価3です。データリンク送ります」
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密度評価:弾丸型は数をカウントすることが困難、かつカウントすることにさほど意味がないため、数ではなく密度で脅威度を評価している。密度3はごく平均的な部類で、散弾を数発撃ち込めば撃退できる。

シルバーグラス2の視界データを受信し、メインモニターに反映する。こちらからはビルの陰で見えない部分だが、ビルを透過するように弾丸型の位置が表示された。こちらも索敵した位置を送信する。各標的との距離が自動計算され、モニターにデータが表示された。
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二か所以上からの観測データを合成し、より正確な測定を行っている。我々人間が片目をつぶると距離感がつかめなくなるのと同じ。分隊の1機からしか確認できていない標的は若干位置がずれる事もあるが、基本的に戦術レベルで問題になるほどでもない。

「それじゃあこちらで陽動をかけます。塔盾型と刀刃型はこちらで抑えられると思うので、上から仕掛けてください」
「妥当なところね、そっちのタイミングで始めて」
「了解、それじゃ始めます」

DANGDANGDANG!

シルバーグラス2が20番口径支援砲を数発放つ。放たれた銃弾は塔盾型に吸い込まれ、弾かれる。元々撃破のための射撃ではない。連射をしつつ距離を詰める。弾丸型の突撃を水平機動で躱しつつ、更に銃弾を送り込む。

斬、斬、弾弾弾、斬!

結晶獣の連続斬撃と弾丸型を潜り抜けつつ、更に接近。水平機動、跳躍、銃撃迎撃、跳躍、後退、水平機動、突撃。

(正面戦闘も随分こなせるようになったじゃん、とは言ってもまだ詰めが甘いかな。あー、そこ危ない)

シルバーグラス2の肩装甲を弾丸型が掠める。姿勢を崩す。しかし、突撃は止めない。姿勢を崩したまま機体を滑らせ、光撃レーザーの準備態勢に入った頭脳型の下に潜り込み、

DANG!DANG!

頭脳型の真下から銃弾を叩きこむ。側転、光撃を回避し、更に乱射。塔盾型の防御。

(真上は空いたか。やり方はかなり乱暴だけど当初の目的は達したからそこは後で誉めてやろう)

ディフェンスブレードを逆手に構える。斬撃パターンを設定、上空奇襲モード2番。ワントリガー実行。

TAN

機体を跳躍させる。空中姿勢をイメージ、身体イメージと重ね合わせる。腕が、脚が、指先まで機体と一つになるような感覚。機体全てを自らの意思の制御下に従わせる感覚。重力の枷を振り切り、身体の全てを機体に委ねる感覚。
//

射撃戦を行いながら下に潜り込んで撃ち込み、上から飛び込んで剣で仕留める、このパターンはゴッドイーターのOPのオマージュです。アリサとソーマがやったやつ。GE2でキュウビ相手に同じことやってて感動した思い出

ああ、これだから吸血騎は最高だ。

落下時間約3.5秒、姿勢制御、加速、振りぬく―――!

ZANG!

頭脳型の頂部にディフェンスブレードの切っ先を叩き込む。落下速度、空中加速度、斬撃パターン実行タイミング、全てを完璧に刺突に乗せ、頭脳型の表面装甲を砕き割る。斬撃パターン、対正面防御3。捻りながらブレードを引き抜き、罅を広げる。後転跳躍―――
//

斬撃パターン奇襲2で突き刺し、キャンセルで正面防御3の構えにすることで無理矢理ブレードを引き抜いたことで傷口を強引に広げた。姿勢は当然崩れるのでそれを利用して後ろに下がりつつ射撃、という連続攻撃

DANG!

90番散弾の単発接射、完全に砕け散る頭脳型、爆散。血飛沫が灰色の装甲を紅く染め上げる。同時に、この頭脳型の制御下の隷属型が砕け散り液化する。
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多くの人がゼロ距離射撃だと思ってるのは実は接射らしいですね。ゼロ距離射撃は砲撃する時に仰角付けない射撃という話と、それは水平射でまた別物だという話を聞いたことがありますけどどっちなんだろう。誰か教えてくれ

状況終了の文字が光るバイザーを上げ、ヘッドギアを外す。肩より少し長い金色の髪が、扇のようにふわりと広がる。PDAを叩いて芒月のシミュレーションモードを終了させ、イスカ少佐は大きく伸びをした。

「お疲れ様です少佐、今コフィン開けますね」
「ありがとうマナ。それにしても芒月、予想以上の仕上がりね。さすが我らが第8小隊のエースプログラマー」
「元々の設計がよく出来てたってだけですよ。プログラマー側で弄れるのは操作系の微妙な誤差くらいです」
「そういう小さな積み重ねが現場では大きく響いてくるんだって。可愛くていい腕してて、その上可愛い彼女が愛機のメンテしてくれるなんて俺は幸せだよ」

シルバーグラス2、もといサシバ少尉が割り込んでくる。「はいはい2人とも、褒めても制御系書き換えしか出てきませんよ」とマナ曹長が通信の向こうでコンソールを操作すると、コフィンが後方にスライドする振動を感じる。ハッチを開いて立ち上がり、少し足元がふらついた。シミュレーションモードの感覚フィードバックが解除されたことにより、現実の身体とのギャップが生じているのだろう。吸血騎遣いの間で棺桶酔いと呼ばれている現象だ。ここの所は実戦任務が多かったからか、この感覚も久々に感じる。
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もっとも厚くしなければならないコックピット正面側から乗り込むロボットって多いけど、正面に可動部があるってよく考えたら耐久性にかなり問題あるよな?と思って背中側から吸血騎遣いが搭乗したコフィンを差し込む、という設定にしました。自動車なんか横から乗り込んで正面はクラッシャブルゾーンにしてるはずなのに、なぜか正面から乗り込むパターンが多い不思議。緊急脱出する際もコフィンごと後ろに射出できる。

「マナの調整も上手くやってくれてるのは勿論だけど、第三世代機、やっぱりすごい性能ですよね。ここまでの性能、本当に実戦で発揮できるんです?」
「またその話続けるの?良い素体は出来上がってるんだから、後はアタシたちで新人も含めて仕上げて行けばいいだけでしょ。それともなに、自分で乗れないからってスネてるわけ?」
「まあ自分で乗ってみたい、という気持ちも少しはありますけどもね。やっぱりソフト的にもハード的にもここまでの性能だとメンテが大変そうというか」
「あら、私の彼氏さんはハードの調整がそんなに嫌なの?ソフト側だけだったらまだいくらでも調整できるんだけどなー」
「はいはい了解了解。実戦で使ってみないと分からない事の方が多いんだから、実戦で動かしてから考えることにしますよ」

整備用キャットウォークで整備トークに花を咲かせる若い二人を置いて、一足先にシャワールームに向かう事にする。下に降りて芒月を見上げる。細長く伸びた触れるものを切り裂きそうな四肢、鋭く見下ろす相貌、胸部を包み吸血騎遣いを守護する鈍色に光る新品の装甲、どれも実戦的な凄みを放っている。さて、こいつをどう育てていくか。口元に薄く笑みを浮かべながら、イスカ少佐は踵を返した。

【インフォメーション】
チャプター0完了、PDF閲覧権限が更新されました

次回、チャプター1-1 ガール・ミーツ・マシーン
ご期待ください。

MaEm

コメント

  1. […] //前回 チャプター0-2 シミュレーション […]

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