チャプター1-3 レッツ・ミー・イート・ユー

チャプター1
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//前回 チャプター1-2 ニュービー

第一印象の点数は20点といった所だろうかと、私は頭の中で考える。目の前の彼女、私の上官となるというイスカ少佐を頭から爪先まで観察した結果、そう結論付けた。左隣で同じように立つレウンを横目で見ると、

「イスカ少佐!?ひょっとして第8騎兵隊の隊長のイスカ少佐ですか!?」
「あら、アタシの事知ってんの?中々嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「去年の血騎杯の決勝戦、俺中継見てましたよ!」

さっきまでの式典の時とはえらく食いつきが違う。話を聞く限り、この少佐はどうやら有名人らしい。が、私には話の内容がほとんど理解できなかった。かろうじて分かったことと言えば、彼女はテレビに出たりする程度には有名であること(普段テレビを見ないのでよくわからない)、去年、一昨年と連続で血騎杯という大会で準優勝しているということ(これもよくわからないが、準優勝というぐらいなら凄いことなのだろう)ぐらいだった。
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飲み会の席で、自分以外のメンバーが自分の知らない話題で盛り上がっている時のあのなんとも言えない感覚。ちなみにMaEmもあんまりテレビ見ないのでその手の話題には疎い。

「まあこんなトコで立ち話もなんだしさ、さっそく移動しようか。二人ともついておいで」

イスカ少佐に先導され、軍本部ビルの外に出る。玄関先には、真っ赤な3ドアコンパクトカーが駐車されていた。フロントには軍用を示すナンバープレートが付いているが、どう見ても公用車には見えない。見た限りでも外装・内装共に相当に手が入っているようだった。
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作中に登場している車は、全て現実世界に存在する者から選定しています。車種はMaEmの趣味、ただしガソリンエンジン仕様ではありません。化石燃料はとっくに在庫切れの世界
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「あー、悪いんだけどとりあえず二人とも後ろ座っててくれる?ちょっと狭いんだけど」

目上の人間が運転席に座る場合は、普通は一人が助手席でもう一人が運転席後方に座るものだろうと考えたが、どうやらそれは無理なようだった。助手席の上には何かの書類やファイルがこれでもかというぐらい積み重なっていて、とても人間が座れる状態ではない。書類の山を崩さないように慎重に助手席シートを前に倒し、後席への進路を確保する。左隣のレウンは、かなり身体を縮めないと入れないようだった。
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運動エネルギーの式、1/2mv^2。つまり余計な荷物を車にたくさん乗せて必要以上に速度出すと必要なエネルギーが増えて燃費が悪くなるという話。皆さんも使わない荷物は降ろしておくことをオススメします。

「それじゃあ車出すからベルトしてねー、ところで二人は車の運転ってできるの?」
「はい、家で作った野菜や米を出荷しに行くのによく運転してました」
「俺も似たような感じです、実家が酒屋だったたたたた!?」
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免許制度が無いので、ペダルに足が着くくらいの身長になれば割と誰でも運転しています。ただし、事故を起こせば相応に罰せられます。具体的には日本の道交法の2倍くらい重いと考えておいてください。

凄まじい振動と加速で車が発進する。この車も少佐の運転も、どちらも色々と凄まじい。レウンが後頭部を強かにシートに強打した。痛そうなのは同情するが、こちらも自分の心配でそれどころではない。「他人を乗せたら絶対に怪我させずに目的地に送り届けること、それが運転手の義務です」と先生が言っていたのを思い出す。
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電気自動車を速度の面から考えた時、ガソリンエンジン車と比べて加速力の部分が最も優れている部分だと思う。最初から最大トルクが出せるしシフトタイムのラグも無いから。だからと言って同乗者が命の危険を感じるような加速はやめましょう。

トップスピードで飛び出した車は、軍本部を抜けて幹線道路に乗り層の端までノンストップで走り続けた。

「ここからは電磁砲塔レイルキャノンの移動ラインに相乗りして第一層まで上がるからね、って話聞いてる?」

あまりの加速の中で気絶しないように意識を保とうとする中、イスカ少佐のそんな声が聞こえたような気がした。ああ、視界が霞んでくる……

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「……てる?起きてる?着いたらしいよ」

目を覚ます。確か少佐の運転する車に乗って、凄まじい加速で目的地に向かって、それから……

辺りを見回すと、どこかの倉庫の中のようだった。薄暗い中に橙色のライトが灯り、周囲を照らしている。他にも何台かの車と、大型の何に使うかわからない機械がいくつか置いてあった。出口は巨大なシャッターで閉鎖されている。

「二人とも降りて、こっからは少し歩くよ。これ、身体に着けといてくれる?」

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助手席の下から、少佐がシートベルトとロープを一纏めにしたようなものを取り出して後ろに放ってきた。ロープの先端には大きなフックが2つ付いており、握ると開くようになっている。少佐は先に降りて、ベルトの部分を肩や腿に巻き付けている。
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安全帯、最近フルハーネスが義務化されたらしいです。腰だけで体重支えるってどう考えてもすっぽ抜けそうだしね。

「えーっと、こういう感じでいいのかな?シラハちゃん、ちょっと後ろの方見てくれない?」
「ええ、たぶんこれで良いんだと思います。私のほうは大丈夫そうですか?」
「んーっと、背中のベルトがちょっと緩そう。締めるの手伝う?」
「いえ、自分で出来ますから」
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背中の耐久力は正面の7倍って話(刃牙)と、俺の後ろに立つなという凄腕の殺し屋(ゴルゴ13)がいますが、要するに背中は反撃できないから硬く出来ているって事なんでしょうか?信頼できる相手に背中を預けたいもんです。

何となくだが、自分で締めた方が確実な気がしてレウンの申し出を断る。ついさっき知り合ったばかりの相手にそこまで任せたくない。

「準備できた?それじゃあシャッター開けるよ」

少佐が壁際のボタンを押すと、鈍い音を立ててシャッターが開き始める。倉庫の中に強い風が吹き込んできた。

「さてと、ようこそ!人類の最前線基地へ!歓迎するよ!」

風に負けないくらいの大声で少佐が叫ぶ。二人でシャッターの外を覗き込んで、

そして倉庫の中に戻る。

「えーっと、すみませんレウン君、やっぱりベルトのチェックもう一回お願いしていいですか?」
「あー、うん。見てあげるよ。俺もやっぱりもう一回確認頼むわ」

シャッターの外には、奈落が広がっていた。覗き込んだ高さは正確にはわからないが、おそらく300m近い。落ちたらどう楽観的に考えても即死だと思う。
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地下空間の第一層だけで300mってそんな無茶なって気もするけどね。広い所の方が組織的な迎撃はしやすいと思うので。但し入り口は狭くしておきましょう。敵が入ってくる場所と数を限定すればその分迎撃もしやすい。

「高い所が怖いのは人間として正常な反応だよ、手すりにそのフック掛けておけばたぶん大丈夫だからさ」

少佐が笑いながらフックを掛ける。どうやらこれは落下防止の安全ベルトだったらしい。ワイヤーが2本、隣のビルまで伸びているだけのものを手すりと呼んでいいのかは大いに疑問だが、そのビルの間を結ぶ通路が人が一人すれ違えるくらいの幅しかないことを考えれば十分頼りになりそうだ。仕方ないので覚悟を決めて、フックを取り付ける。
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なんでこんな無茶苦茶な通路かというと、空間の有効活用と簡易な構造にすることで破壊されたときすぐに復旧できるようにするため

「というか、こんな危険な道じゃなくてもっと他のルートは無いんですか?」
「まあ無いこともないんだけどさ、上下移動多すぎて歩いて小一時間かかるんだよね。これなら10分もあれば着く」

少佐が気の遠くなりそうなことを笑顔で言い放つ。初日から退職を考えるようなことを言わないでほしいが、少佐は鼻歌交じりにこの通路、あるいは橋を渡り始めてしまった。仕方ないのでレウンと共に着いていく。

「第一層は迎撃区画って言うんだけどね、これだけの広さの空間が作れれば戦闘もやりやすいってわけ。四層で電磁砲塔が動いてるの見たでしょ?ああいう感じで状況によってビルの配置を変化させて、その場その場に応じた地形を作るって仕組みなの。」

少佐が第一層の解説をしてくれるものの、全く頭に入ってこない。が、頭で理解するまでもなく、現実が直接目に飛び込んできた。

GAGAGAGAGAGA……

「……んーっと、アレ?今日って区画整理はやらないって書いてあったような気がするんだけどな。って、あー……」

ポケットからPDFを取り出した少佐が首を傾げる。

「ごめん、道間違えた。いったん後ろ戻るわ」

だから初日から軍を辞めたくなるようなことを言わないでほしい。まだ3年も任期が残ってるのに。

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「お嬢!3番機と4番機の装甲取り付け終了しました!」
「オッケー!こっちの書き換え終わったら見にいくから待ってて!」
「マナ!俺の燕柳えんりゅう、やっぱり右腕の関節ダメそうだわ」
「アンタは後衛なのに接近されすぎ、パーツ幾つあっても足りない……って、あら隊長、お帰りなさい。その今にも死にそうな顔してる子たちがうちの新入り?」
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巨大ロボットで殴り合いするにあたって、最も心配なのは脱臼だと思う。いっそ可動域を人間より大幅に取れることを生かして、オーバートルクが掛かったら一旦関節を外して、距離を取って仕切りなおせるようにしとくのもアリかもしれない。

やっとの思いで目的地にたどり着く。マナと呼ばれた女性がPDFから顔を上げ、こちらに手を振ってきた。PDFには長いケーブルが伸びている。ケーブルの先には、5mほどの巨人が佇んでいた。

「ただいまー、紹介するよ。こいつらが新人のシラハとレウン。こっちはマナとサシバね」
「初めましてだね、第八小隊で整備士やってるマナって言います。よろしく!」
「サシバだ、よろしく頼むよ」
「ウッス!ところでマナさん、これってひょっとして燕柳ですか?」
「あら、よく知ってるじゃん」

レウンが巨人を見上げながら興奮した様子で話す。さっきまで車酔いと高所への恐怖に慄いていたのとは大違いだ。その巨人は人型をしてはいるが、人間をそのままスケールアップしたのとは違い、腕も脚も太く、胸板も分厚い。背中には巨大な棒状のパーツを2本背負ったその形は、昔本で読んだ、この地域周辺を武力で統治したという戦士サムライを思い浮かばせた。人でいう目の部分に当たる部分は、細長く黒いスリット上になっており、足元の私たちを睨み付けるような形をしている。灰色の装甲板は無光沢に塗装されて、実戦的な凄みを感じた。

「ここに俺たちが呼ばれたって事は、ひょっとして燕柳に乗れるって事ですか!?」
「残念、コイツに乗るわけじゃ無いんだ。向こうの格納庫だからちょっと着いてきてくれるかな」

あからさまに残念そうなレウンと対照的に、私は心の中で胸を撫で下ろす。これに乗って戦う?冗談じゃない。戦闘職種は希望していないのだ。自分の性格的にもきっと向いていない。

マナさんとサシバさんについて、隣の格納庫に向かう。サシバさんが壁の制御盤を操作すると、天上から吊り下げられたライトが点灯して、格納庫内を明るく照らし出した。

「さてと、紹介するよ。これが第八小隊の3番機と4番機!第三世代試作吸血騎、芒月ぼうげつです!」
「……えっ、コレがっすか?」

格納庫には、芒月と呼ばれた巨人が2騎、立っていた。いや、立っていたというのは厳密には正確ではなかった。それには人間の爪先の部分が無く、脚はさっきの燕柳に比べると細長い。スラリとしているというよりは、強度が足りない、という印象を抱かせる。その脚は地面に付いてはおらず、代わりに肩の部分で固定されて天井から吊り下げられる形となっていた。肩から伸びる腕も細く頼りなさそうな印象。燕柳の背中から伸びていた2本のパーツに似たものが、腰の部分に生えているが、これも随分と細く頼りない。装甲の色は光沢のある紅で、なんとも言えない安っぽさがある。何より違うのはその体長だ。目算で約3mといった所か。全体的な細さと相まって、二回り以上小さく見える。
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戦闘兵器を深紅の光沢塗装って正気かよ、と思いますが試作機なので目立つ色に設定しました。パーツが脱落したりしても発見が容易になる。

端的に言って、弱そうに見えた。

「それじゃあ改めて、アンタたち2人の仕事内容を伝えるよ。」

イスカ少佐が私たちに宣言する。

「2人には、この機体に食べられてもらう・・・・・・・・!」

次回、チャプター1-4 ヴォミティング
ご期待ください

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MaEm

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