チャプター1-4 ヴォミティング

チャプター1
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//前回 チャプター1-3 レッツ・ミー・イート・ユー

「食べられるって少佐、もう少し言い方ってものはないんですか?」
「マナは実際に食べられたことが無いからそう気軽に言えるんだよ。あれは食べられるとしか言いようがない……って悪いね二人とも、食べられるっていうのはあくまで比喩であってね。別に君たちを頭からバリバリと食ってやろうとかそういう話じゃないから安心していいよ」

あっけにとられていた私とレウンを見て、マナさんとサシバさんがフォローを入れてくれる。話を聞く限り、入隊1日目から人肉祭りカーニバルの生贄というのは避けられそうだった。私もレウンも、来いと言われたから軍に来たわけであって、食べられに来たわけではない。もし本当に命の危険を察知したらその時はすぐに逃げようと決心する。
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るろ剣などでおなじみの和月先生の作品、武装錬金の作中でカーニバルの語源がカニバリズムだと思ってたけど後から調べたら間違いだった、というエピソードがある。だから人肉祭り

「まあ食べられるってのは流石に冗談だけどさ、とりあえず二人には着替えてもらおうかな。シラハはアタシと一緒に着いてきて、レウンはサシバが案内、マナは搭乗の準備と、念のためバケツと水用意お願いね」

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「あの、私の仕事ってやっぱりあれに乗って戦う事なんですか?」
「んー、まあ半分正解ってところかな、戦う事だけが仕事ではないよ。戦うのは嫌い?」
「少なくとも向き不向きで言ったら向いていないと思います。性格的に争いごとってあんまり得意じゃないんですよ」
「まあそんな顔してるよね、わかるよ。じゃあここね」

イスカ少佐に案内された部屋には、「女子更衣室」と札が付いていた。着替えてもらうというのは冗談やたとえ話ではなかったらしい。少佐が備え付けられたロッカーの一つにPDFをかざすと、電子音と共にロックが解除される。中にはケースが一つ、着替えというには少し大げさなサイズのそれを取り出し、

「こっちは本人のPDFじゃないと開かないからね、というわけでよろしく」
「なんだか随分と厳重な管理ですね」
「結構な精密機械でなおかつ高価だからね。じゃあとりあえず、そこで全裸ね」
「へ?いきなり何をってちょっと!何するんですか!?ひゃあぅ!?」

いうが早いか、少佐が私の服を脱がせにかかってくる。制服の上下から靴に靴下に、下着まで一瞬で剥ぎ取られてしまった。他人の服を脱がせるってそれなりに手間がかかると思うのだが(これは実経験、別に襲ってやろうという事ではなく施設の年下の子供たちをいう事を聞かせながら着替えさせた時の話だ)、全く抵抗するヒマすらなかった。手慣れすぎてゾッとする。

「へー、中々いいカラダしてんじゃん。眼福眼福、手触りも柔らかさも素晴らしい、若いっていいねえグヘヘ」
「そんな所褒められても嬉しくありません!というかどさくさに紛れて触るのやめてください!笑い方が気持ち悪いです!あとそのプロポーションの持ち主に言われても複雑です!」
「はいはいわかりましたやめますー、いいじゃん別に減るもんじゃ無し」
「まったく……というより着替えるんですよね?このままじゃ風邪ひきそうです」

両手で最低限の防御姿勢を整え、何とか話題を変える。そうだったと少佐はケースの中から、黒いインナーを取り出して広げた。上下が一体型になっているそれを少佐の指示通りに、脚から着ていく。インナーは首筋のあたりから先が無く素肌をさらしている状態になったが、素材がよく出来ているのか一枚着るだけで寒くはない。

「じゃあ次は腕ね、両手挙げて」
「いや良いです自分で着ますやり方だけ教えてくださいそれとその手の動きやめてください」

ケースの中の残りの部品を取り出して、体に取り付けていく。芒月と同じ赤い装甲板のようなをれを前腕部、胸部、脚部、腰部、腿部と順番に全て装備した。見た目はずいぶんとゴツゴツとしているが、思ったよりも軽く動きやすい。首の後ろから肘あたりが開いている以外は強度もありそうだ。軽く叩くとカツカツと小気味のいい音が響いた。

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「少佐、シラハちゃん、お帰りなさい。随分と時間かかってましたね」
「いーじゃんよー、女の身支度には時間がかかるんですー」

レウンとサシバ少尉は既に着替え終わっていたようだった。少佐がやる気のない返事を返す。私としてもさすがに「更衣室で襲われていました」とは言いにくいのであいまいに微笑んでいることにした。

「少佐、こっちは準備できています!」
「了解了解、それじゃあ2人ともあそこにあがって」

見上げると、芒月の肩の上のキャットウォークからマナさんが下に手を振っていた。おそらく整備用らしく、前後に動くレールが付いている。キャットウォークの端には武骨な鉄製の梯子が備えられており、それで登れるらしい。

「今開けるからちょい待っててね……っと良し、それじゃあレウン君が三番機、マナちゃんが四番機。入ったらセッティングあるからそのまま、余計なところ触らないように」

芒月の背中側のロックが外れ、後方にせり出してきた。形状から見るに、そこに座れという事だろう。椅子の下にはペダルが3つ、ひじ掛け部分には両手の収まる場所にグリップとキーボードが左右取り付けられている。足の間には小さなモニターがあり「System VAMP Ver.3.00」の文字が赤く灯っていた。脚を入れると中は随分と狭く感じる。ちょうど風呂桶ぐらいのサイズ感だろうか。//

コフィン(コックピット)に背中側から入るのはちょっとこだわり。普通搭乗型ロボットって胸のほうから入ると思うんですが(エヴァのエントリープラグとかまあ例外は結構あるけど)、一番被弾の多い胸部正面に可動ヒンジがあるって強度的にマズくないかと思ってこうしました。緊急脱出の際には背中の武装ラックを強制排除して後ろにコフィンごと射出。武装ラックはそれなり程度の強度の設計とすることでクラッシャブルゾーンの役割を果たしています。

「じゃあセッティングやるからちょっといいかな。まずは座面の下のレバーでシート位置調節して、ペダル踏んだ時に脚が伸び切らないくらいの位置ね。そうしたら次はモニターの角度、それはすこし下を向いたときに見やすい角度と位置に。あとベルト、左下の腰のあたりにあるでしょ?そうそれ」
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シートの位置、バックミラーの角度、最後にシートベルト、教習所でこの順番で教わりましたね?ベルトは腰だけで斜め掛け部分のない二点式、肩は後から拘束します。

マナさんが手際よくセッティングをしてくれる。体の各部が収まる場所に収まったら、狭いコフィンにも少しは余裕ができるようになった。

「じゃあ最後に自分のPDF出して、そこのモニターの下のコネクタに軽く刺して。まだ奥までは入れないように。私が合図だしたら奥まで押し込んでいいから」
「えっと……こうですね、わかりました」
「ちょっと緊張してる?さっきから口数少ないみたいだけど」
「ええ、はい……無口なタイプだとはよく言われますけど、緊張は確かにしています」
「ある程度肩の力抜いておいた方が良いってサシバも言ってたからさ、まあ少しリラックスしてみて。じゃあコフィン閉めるよ」

マナさんの操作でコフィンが前に戻っていく。完全に閉じるとコフィンの中はほとんど完全な暗闇となった。モニターの光だけが中を照らす。閉所恐怖症や暗所恐怖症の気はないが、そうでなくてもあまりいい気のする状態ではなかった。

「二人とも聞こえる?コフィン内と管制室で通話できるから、聞こえたら返事してくれるかな」「ウッス、良好です!」
「はい、こっちも大丈夫です」

マナさんだけでなく、レウンの声も入ってくる。位置はよくわからないが、どこかにスピーガ―が備わっているらしい。よほど高性能なスピーカーなのだろうか、二人の声はやけに鮮明に聞こえた。
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スピーカーの位置が分からなかったのは、コフィン全体が振動して音を発しているから。周囲全体から聞こえるような感覚になる。司令部からの通信は全体から聴こえるように、僚機からの通信は僚機のいる方向から聴こえるように設定されている。

「それじゃあ始めるよ、頭は後ろにしっかりとくっつけて。上からヘッドセット降りてくるからぶつけないように注意して」

そう言うと、上から何かがせり出してきて頭部、額のあたりに収まった。耳も覆われる。

「あとは最後、その姿勢のままでPDFを一気に下に押し込む!」

言われた通りに右手をPDFの上に乗せて、リラックスしたほうがいいという言葉を思い出し、一度深呼吸する。効果のほどはよくわからないが、きっと何かしらの意味があるのだろう。

「ッツ…………!!!?」
「うがっ!?」

PDFを押し込んだ瞬間、両肩に激痛が走った。何事かと首をひねって確認しようとするが失敗する。何かに首筋を固定されている、いやむしろ文字通り「食べられている・・・・・・・」と言った方が正確かもしれない。

「マナ、こっちのバイタルモニターは二人とも正常。第二段階行けるよ」
「了解、二人とももう少し我慢しててくれるかな?」

まだ続きがあるのかと抗議の声を上げようとするが、できない。口も舌も動かないのだ。それどころか、固定された首以外にも指先も脚もピクリとも動かない事に気が付く。どうにかよじるように体を動かそうとしたその瞬間、ドクンと心臓が跳ねるのを身体が感じた。
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心臓が止まった音、来週解説予定です

「はい、二人ともお疲れ様。私の声は聞こえてる?身体は?動かせる?」
「えっと……身体は動きます、でも肩の痛みと何だか吐き気が」
「俺も大体同じです。あと何だか地面がフワフワするような感じが……」
「目は見える?上のモニタールームにいるんだけれど」

見える、と答えようとして違和感に気が付く。さっきまで私はどこにいた?暗く狭いコフィンの中だった筈。とすれば見えるのは正面の小さなモニターだけだ。しかし、目にははっきりとモニタールームと、そこから手を振る2人が見えた。

「見えてるならそれでOK、理屈は後でゆっくり説明するから。それより今度は下、少佐が脚を触るからね」

左脚にサワサワとしたような感触を感じる。何事かと下を見ると、視界の隅、だいぶ下のあたりにイスカ少佐が立って、芒月の脚を軽くさすっていた。

足元に?言われてみると確かに少佐は下にいる。足元に、やけに小さく少佐が映る。

「それを感じるって事は触覚もリンクが通ってるってことだね。それじゃあ接続テスト終了。二人ともお疲れ様」

今度は視界がいきなり暗転する。フッと気が付いたときには、最初に入ったコフィンの中だった。夢でも見ていたのかと思ったが、モニターとPDFの放つ光が、夢じゃないと主張するように辺りを照らしていた。

「二人ともお疲れさん、めでたくあんた達は芒月に「食べられた」。これで芒月はあんた達のいう事を聞くようになったってわけ。吸血騎遣い二名、誕生……って大丈夫?じゃなさそうだな。」「えッと少佐、まずトイレ行きたいんすけど……」
「うッ、はい、私もお願いします……」
「これはトイレ行くよりこの場でしちゃった方が早いわ、マナ、バケツ取って」

二人仲良く、朝食と再会する羽目になった。
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ヒロインがゲロ吐く作品は名作

次回、チャプター1-5 インストラクション・ワン
ご期待ください

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MaEm

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