額に流れる汗を拭おうとして、ヘルメットに当たる事に気が付く。仕方ないのでバイザーを開けて、厚い手袋で不自由な指をどうにか中に入れて垂れてきた汗を払った。コフィン内温度は現在27℃を指し示している。スーツの水分補給システムを作動させ、水を一口飲む。
「うーーーー、ったく、暑い!」
「暑い暑い言ってたって、余計暑くなるだけですよ。それより、そっちの大きい岩どかすから少し手伝ってください」
「あいよー、コレ少し小さく砕かないと出せないんじゃない?ブレード使って砕く?」
「オイお前ら、疲れたろ。それは後で良いから一旦休憩入れようか」
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芒月より一回り程大きいその岩を、どのように外に出すか頭をひねっていた時、タカヒト中尉が声をかけてきた。見ると、他の作業員たちも各々の仕事を切り上げてエレベーターに戻っている。「わかりました」と返事を返して、芒月のコフィンを開いた。背中側にスライドしたコフィンから身体を外に滑り出し、ヒートコンデンサーを足場代わりに使って地面に降り立つ。
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「お疲れさん、おかげで助かったよ。重機も一度に入れる数が少なくてな、あの小さい吸血騎ならモノ持ち運んだり穴掘ったり、一騎で色々と小回りが利いて便利だな。まあ、とりあえず水分とっとけ。あとコイツも食うといい」
エレベーターで上の事務所に戻り、空調の効いた休憩室で一息つく。タカヒト中尉が備え付けられた冷蔵庫から、お茶のボトルと白い親指程のサイズの錠剤をを1粒取り出して放ってくれた。
「この白いの、何ですか?」
「塩分タブレット。汗かいてる時は水分だけじゃなくて塩分もとっとくと良いんだよ。ちなみにそれに使ってる塩は、さっきまで掘ってた地下から産出したモンだ」
「へぇ、地下にそんなものが埋まってるんすか?」
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中尉は麦茶を呷ると、ポケットから煙草を取り出し、スイッチを入れて咥えた。
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「っと悪いな、あんまり子供いるのに吸うもんじゃねえや。オイお前ら、そういうワケだから吸うなら外で吸ってくれ!文句言われたら俺の名前出してもいい!よし、それじゃ塩の話でもしてやるかね。岩塩、って言ってだな。コイツを見てくれ」
煙草をポケットに戻し、代わりにPDFを取り出した中尉が私たちに画像を見せてくる。ガラスのような透明な石が幾つか写っていた。色は白、ピンク、青、紫など様々で、美しく光を反射していた。
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普通は日本の場合海水から作りますが、今作では岩塩という設定。海が無く塩が貴重品だという設定の進撃の巨人でも、おそらく岩塩だろうと考察されてましたね
「これがその岩塩ですか?塩なのに白じゃないんですね」
「ああ、俺も色の違いに関しては詳しいわけじゃ無いんだが、結晶構造の歪みが原因だとかって話を聞いたことがある。それで白以外の色に見えるんだとさ」
「って事は、俺たちがさっきまで掘ってたのは塩を探すためって事っすか?」
「いや、さっき狙ってたのは黄爆石っていう別の鉱物だ。他にもあの辺だと鉄や銅なんかも出ることがあるんだけどな。ちょい待ってろよ」
PDFを操作し、また別の画像を表示させる。今度は、どぎつい黄色の鉱石だ。
「こいつが黄爆石だ。使い道はまあ色々あるんだが、軍用だと基本的には爆薬の原料に使われる代物だな。この黄爆石と白爆石っていうのを使って爆薬は作るんだが……」
「ああ、それならアタシが説明しますよ」
「少佐?」
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休憩所の入口から、ひょっこりとイスカ少佐が顔を出してきた。
「まあ爆薬扱うのは吸血騎遣いの方が多いか。そんじゃ説明は任せるよ」
「わかりました、んで爆薬作るのに黄爆石と白爆石ってのが必要だって話までは聞いたね?黄爆石の方はこの近辺の地下掘れば割と出てくるんだけども、問題は白爆石のほう」
「って事は、採れる量が少ないんですか?」
「少ないというより、まず採れないというくらいのレベル。地下掘っても出てこないから、他の方法で合成してるんだけどね。何だかわかる?」
何だかわかるかと聞かれても、そもそも白爆石という単語自体を初めて聞いた。わかるわけがない。
「答えは、人間のウンコと小便から作る」
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このことから、第玖地砦には水洗トイレは無くて全部ボットンという事が判明しました。資源の限られた閉鎖空間だからこういうものまで有効活用してるのよ。
思わず口の中に含んでいたお茶を噴きそうになる。握っていたカップの中の黄金色の液体が、何とも素敵に輝いていた。
「おいおい、昼飯前だぞ……」
「いやいや、爆薬の扱いは吸血騎遣いには必須技能ですからね、ちゃんと説明しとかないと。まあこれで精製した白爆石だけど、黄爆石と反応させることで爆薬を作ることができる。とは言っても、この方法で作れる白爆石はかなり量が少ない。故に、爆薬って言うのは貴重品だ。昔は兵器にバカスカ使ってたらしいんだけどね」
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「そんな貴重な爆薬だけど、貴重なだけあって威力はすさまじい。PDFで結晶獣の有効な倒し方って2つ書いてあったでしょ?覚えてる?」
「えっと、高初速弾で貫通させるか高熱で無力化するかでしたよね」
「シラハ、正解。爆薬ってのはその内の高熱で無力化するって方に極めて有効な方法でね。というより、爆薬の大量生産方法が確立すれば結晶獣なんてあっという間に殲滅できるって話だよ」
「さて、何で今爆薬の話したかって言うとね。実はアタシたちに地砦外の調査の話が来てるからなのよ」
「マジっすか!?って事は俺たち、外が見られるんですか?」
「そういう事。そして、地砦外調査任務に就く吸血騎には爆薬を利用したグレネードの装備が義務付けられてる。貴重品だけど使えばどんな結晶獣相手でも一発で無力化できるから、緊急時用の装備って面が強いけどね。貴重なグレネードを2発も任されるくらい、吸血騎っていうのは期待されてるって事なのよ」
「期待されてる、ですか……」
気が重い。溜息の一つも出る。
「中尉、お話し中失礼します!昼食の用意が出来たそうです!」
「おう、今行くよ。さてと、お前ら!ハラ減っただろ。兵隊は食える時に食っとくもんだ。食堂こっちだから付いてきな!」
香辛料の香りが食欲を誘う。今日の昼食は、カレーだった。
次回、チャプター3-3 グレネード
ご期待ください
MaEm
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