チャプター3-3 グレネード

チャプター3
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前回 チャプター3-2 サーフリック、ナイトリック

「それじゃ、ブリーフィング始めるよ。全員着席!」

ブリーフィングルームに普段置いてあるモニターアーム付きの椅子が片付けられ、代わりに長机と椅子が複数並べられ、30人ほどが座っていた。机にはPDF接続用のコネクタとモニターが埋め込まれている。

座っている人間を見回すと、サシバ少尉にマナ曹長、タカヒト中尉もなぜか座っている。その他は、見覚えのない顔だった。

「作戦目標は第玖地砦から南に約20kmの位置の放棄された旧軍基地、これの内部調査と物資回収だ。一週間ほど前に別の部隊が調査中に発見したんだが、旧世代の火薬砲の砲弾や内燃機関の無事な車両なんかがゴロゴロ転がって放棄されているらしい。輸送手段がなかったからサンプルとして爆薬だけ少量持って帰ってきたんだが、少し処置すれば十分実用に耐えるという話だ。」
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人類はつい最近まで第玖地砦の外に出ることができなかったため、20km程度の距離でも大発見である。これは車両の絶対数の少なさ、結晶獣の危険、地上の汚染によるものが大きい。一方、放棄された旧世代の基地内にはこういった物資が大量に放棄されていることがあるため、生産能力の限られる第玖地砦では非常に重要になってくる。

PDFと正面の大型モニターに、大きな倉庫のような建物が映し出される。外壁は朽ちてはいるものの、大きく崩れているような場所はない。錆び付いて放置されたトラックとサイズを比較して考えると、かなりの量の物資が眠っているのだろう。

「今回の作戦は陸上空母1隻と大型トラック4台、それに第八小隊から吸血騎4騎を護衛として付けて行う。二日後、2000に出発して現地到着予定時刻は2200前後。内部の探査はそこから5時間を目安として行う。予定通りにいけば翌日0300に現地を離れて、0500には第玖地砦に戻ってくる。何か質問は?」
「では」
「どうぞ、タカヒト中尉」
「この周辺の地形データ、および倉庫の侵入経路について確認したい。車両を停車できるスペースと、重機が入れる場所がないと作業効率に影響が出る」
「それに関しては私が説明します」
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陸上空母:そんなものは現実世界には存在しませんが、吸血騎を小隊ごと輸送するのに設定。地砦外への探索自体がそもそもつい最近始まったばかりなので、運用ノウハウもまだあまり固まっていません。大型で吸血騎4騎に加えて人員と支援機材や武器装備一式を同時に運搬でき、簡易的な整備機能も備えています。その代わり、小回りが利かず太い道路しか走れません。履帯で不整地踏破性はそれなり(アスファルトの損傷とか気にする必要ないので)

眼鏡をかけた、30代前半程度の男が立ち上がって話し始めた。

「この倉庫を発見した騎兵部第五小隊、ツバタ大尉です。まず、停車位置に関しては問題ありません。物資搬入用と思われるゲートが確認されていて、十分な空間が確保されています。倉庫の侵入経路に関しては、そのゲートを使用するのが良いでしょう。ゲートの大きさは縦横約4m、吸血騎では侵入できませんが、小型の作業機械程度でしたら入れるかと」
「なるほど、では侵入に関しては問題ないと。ではそれに対応した機材を用意しておくとしよう」
「ほかに質問は?無ければブリーフィングを終了する。各自解散。レウン、シラハ二訓は少し追加で伝達事項があるからこの後残るように」
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ここでの作業機械とは、ショベルカー等ではなくパワードスーツのようなものを想定してもらいたい。今回の任務が解体ではなく物資の搬出であることから、一度の運搬量を犠牲にしても小回りを優先した方がいいという判断。作業用ではなく戦闘用の装備をすれば、小型の結晶獣程度なら防戦は可能。作業用装備では時間稼ぎ程度がせいぜい

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「やっぱ他の部隊と混成任務は気を遣うわ、あー疲れた」

他の部隊の人たちが自分の仕事に戻り、閑散としたブリーフィングルーム。少佐は机に突っ伏して大きく伸びをしていた。

「だからって、いくら何でもダラけすぎですよ少佐。そもそもまだ出撃すらしてませんし。で、話っていったい何ですか?」
「ああ、爆薬がいかに貴重かって話、前にしたでしょ?今回みたいな実戦が想定される任務だと、吸血騎は爆装していくことが義務付けられている。今回はそれについてちょっとね。コフィンの左右にグレネードの安全装置が付いてて、それを解除してグレネードを選択すれば射撃可能になる」

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キーを回してガラスケースぶち破り押すスイッチ、一家に一台欲しいよね。……要らない?緊急用の武装の安全装置としては正直手間が多すぎるような気もするけど、趣味優先で

「当たりさえすればほぼ確実に結晶獣は無力化できるけど、まあそんな単純なものじゃない。まず加害半径、これが大体15mと結構広い」
「攻撃できる範囲が広いって良いことじゃないっすか?なんか問題あるんですか?」
「爆発して半径15m以内を無差別に焼き尽くす兵器だよ?敵も味方も関係なしにだ。吸血騎の装甲ならダメージこそ受けるが致命傷というほどでもない。だけど、もしそれが人間や装甲の薄いトラックだったら?つまりはそういう事だよ。」
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人間用の手榴弾と比較して考えると、吸血騎の使用する手榴弾が加害半径15mというのは正直狭いと思う(例として、米軍で現在使用されているM67手榴弾で有効加害半径15mと言われている)これに関しては書くと結構長くなりそうなので別で記事書きます。全長3~5mの吸血騎が使用するグレネードということ考えたら、半径50mくらい吹っ飛ばしてもいいとは思うけど一応理由があります。くわしくはこちらをご覧ください

「もう一つは……」
「何です?」
「値段だ。これ、1発で大体アタシの年収3年分くらいが吹っ飛ぶ」
「そんなに高価なんですか?」
「ああ、撃ったからって請求書が回ってきたりはしないけど、その代わりに撃った部隊の小隊長が各所に頭下げまくり、何枚も報告書書かなきゃいけなくなる」
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「一番気に入っているのは」「何です?」「値段だ」いわゆるコマンドーパロです。ちなみに、イスカは階級少佐で吸血騎部隊の隊長であることから危険手当等含めて同年代の約3倍の給料貰っていると改めて書いておきます。自衛隊の三佐で月給30~45万くらいだとか

そんなに高価なものを渡されるとは。出撃前からだらけ過ぎではないかと少佐には言ったものの、私は今からすでに胃が痛い。

「さて、それじゃあこのグレネードを使う上でのアドバイス。必要なとき、使うときは、絶対にためらわないこと。加害範囲も値段も、一切気にしないで撃ちなさい」
「加害範囲を気にしないって……つまりそれは味方がそこに居てもっていう事ですか?」
「そう。自分に命の危険があると判断したら、どんな状況でも迷わずに撃つ。今の人類にとって、吸血騎は文字通り生命線なの。数少ない吸血騎が失われたら、その時点で人類は滅亡に近づく。芒月みたいな最新鋭機なら尚更。だから、撃つ時は絶対に躊躇しないように。いい?」
「……はい、わかりました」
「よろしい。値段と始末書に関しては別に気にしなくていいよ。アンタ達が生きて帰ってきてさえしてくれれば、頭くらいいくらでも下げるし始末書も書くから。話はおしまい、今日は戻ってゆっくり休んでおきなさい」

次回、チャプター3-4 ミルキーウェイ
ご期待ください

MaEm

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