時刻は2020、私たちを乗せた『はちまん』は順調に予定のコースを移動し、最初の索敵ポイントにたどり着いていた。既に第八小隊の4人は、それぞれの吸血騎のコフィンに収まっている。
「さーてと、そんじゃあここからは本格的に仕事してもらうよ。まずはアタシとサシバで前方の索敵、アンタたちは索敵終了まで『はちまん』とトラックの護衛。索敵が終了したら部隊と一緒に前進」
「わかりました、それまでにもしも結晶獣が近づいてきた場合はどうしますか?」
「その時は戦闘になるわけなんだが……まあ別に倒せとは言わん。一度に進む距離は3kmだし、燕柳だけだったら2分もかからない。だから時間を稼ぐことを第一に考えろ」
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「それじゃあ、行ってくる。いい子にしてなさいよ」と、イスカ少佐とサシバ少尉の燕柳ははちまんを降りる。その手と武装ラックには、今まで見たことのない装備が幾つか取り付けられていた。
少佐の燕柳は、両腕に1本づつディフェンスブレードよりも少し長いぐらいの細長い箱に握り手を付けたようなものを。少尉の方は右腕は少佐と同じ箱を握っていたが、左にはそれよりも更に2倍ほど長い、燕柳の背丈と同じぐらいのものを握っている。こちらは、箱の先にさらに細長い筒を生やしたような形状だった。その奇妙な武器らしきものの他に、背面武装ラックには大きなリュックサックのような、大きな箱を背負っていた。
「それ、武器なんですか?」
「ああ、それはアタシじゃなくてマナに説明してもらおうかな。というわけで、護衛中の暇つぶしにお話しヨロシク」
「はーい、了解です。それじゃ二人とも、周囲警戒しながらでいいから聴いてくれるかな」
マナ曹長が通信を入れてくる。
「まず、少佐とサシバが手に持ってた小さいほうから説明しようかな。あれは20番口径砲3型、とは言ってもそんな長ったらしい名前で呼んでる人は誰もいないけどね。通称はライフル3型」
「ライフル?って何すか?なにか由来でもあるんです?」
「もともとは歩兵が使う小銃の事をそう呼んでいたらしいんだけどね。吸血騎用にでっかくした奴も通称でライフル、って呼んでいるだけだよ」
「3型、って言う事は1型とか2型もあるんですか?」
「最初の設計から2型になるときには照準装置を強化型に乗せ換えて、3型の時はフレームと弾倉の設計を見直して装弾数を40発から60発に増やした。ちなみに、この時テストやったのはうちの部隊ね」
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ライフルという通称は意図的に誤用?しています。吸血騎用の武装にライフリングは刻まれていませんが、言葉は生き物で月日と共にどんどんと意味が変わっていくという事を示しています。
絵はありませんが、見た目はH&K G11のマガジンを後ろ側に持っていき、中で90度回転させずに通常のマガジンと同じように装填する、というイメージして自分では書いています。その内別個で記事書こうと思いますが、人間が使う武器としては産廃極まりないあの銃も吸血騎の武装として考えたらかなり理想的なのですよ。まあこの設定が生きるかは現状全くわかりませんけどね!
「それじゃあ次はサシバの持ってたもう一つの方説明しようか。あれは20番口径支援砲、コレもみんなロングライフルとかって呼んでることが多いけどね。長くて重い分取り回しは悪いけど、その分長射程で威力も高いし、装弾数も多い。今回はそのまま持って行ったけど、必要に応じて折りたたんでコンテナに入れて運ぶこともできるよ」
「遠くまで狙える、ってことは索敵した相手を遠距離から一方的に攻撃できる、ってことですか」
「そういう事になるかな。まあ私も自分で乗るわけじゃないからそういう細かい運用面に関してはそこまで詳しいわけじゃないんだけどね。遠距離を攻撃したり、味方の移動を支援するのに使うとかってアイツは言ってたかな」
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こちらの元イメージはブローニングM2重機関銃。非常に高い信頼性・量産性から80年以上現役の凄い奴です。普通に撃っても800mを狙える精度に加え、実際に単発で2300m狙撃に使用されたという経歴があります。
一方、普通この手の機関銃はバレルを即座に交換できる機構があるものがほとんどですが感応装甲の設定上、バレル交換が非常に難しいという欠点があったり。
要するに、あの手に持った武器は弾丸を感応装甲を応用して撃ち出す遠距離攻撃用の武器なのだという。私たちにもあればわざわざ敵に近付かなくても済むのに、と思ったが、第3世代機用の遠距離武装はまだ完成していないらしい。感応装甲を使用するので、まずは機体そのものを十分に使い込むように、とは曹長の言。
「最後に背中のでっかい箱、アレの中身が『ヘンゼル』と『グレーテル』。武器ではないけどね」
「ヘンゼルとグレーテルって、あのおとぎ話のですか?」
「そうそう、家から森に歩いていくとき、帰り道がわかるように光る石を落としながら行ったって描写あったでしょ。ヘンゼルの方は小型の複合索敵センサー、振動と音響、光学のデータを拾って付近を移動する結晶獣を探すのが目的。グレーテルは長距離通信の中継器。ヘンゼルで拾ったデータや索敵に出た吸血騎と母艦の通信用システムを積んでいる。通信距離は約150mで、基本的に50mごとに設置しながら移動するって言っていたよ」
「何でまたそんな勿体無いことするんです?資源の無駄じゃないっすか」
「あー、それについてはそろそろだと思うんだけど……っと、来たかな」
『シルバーグラス2よりハチマン・コントロール、目的地に到着した。敵影は現在確認されていない、前進どうぞ」
「ハチマン・コントロール了解。機関室、前進と回収準備願います……っと、回収っていうのはさっき撒いていたヘンゼルとグレーテルの話ね。確かに、必要数の3倍っていうのは多いっちゃ多い。だけど、元々回収することが前提だからね。多少贅沢にバラまいても、道中の安全性確保と考えれば安いものだよ。他にも、充電量と連続稼働時間の問題とか、結晶獣に破壊される可能性とかもある」
「なるほど、では今から回収しながら先に行っている2人を拾いに行く、ってことですね」
「そういう事。目的地は魔女の家、お菓子でできてるかは知らないけど、爆薬ならいっぱいあるって話だし、さっさと行って回収しちゃおうか」
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