チャプター3-4 ミルキーウェイ

チャプター3
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前回 チャプター3-3 グレネード

「これが吸血騎用の輸送車両ですか?」
「そうだよ、でもこれは今まで第玖地砦内で移送するのに使っていたトラックとは全く違う。ふたあら型吸血騎輸送母艦、『はちまん』」
「へー、こんなにデカいんすか」
「吸血騎だけじゃなくて他の要員や各種資材、武器装備に簡易的だけど整備機能もあるからね。その上で長時間の作戦行動に従事することを考えると、まあこんな感じの大きさになっちゃうんだ」
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ふたあら型はちまん、これはMaEmの地元の地名から拝借しました、ちなみに三番艦です。搭載できる吸血騎の数が4騎というのは少なすぎるんじゃないかという話もありますが、これは吸血騎が航空機ほど量産できないこと、単騎の戦闘能力が航空機とは比べ物にならないので1小隊分乗れば構わないという事、陸上を移動する空母なのであまり巨大にすると運用面でのデメリットが大きすぎるという事なんかが理由です。ドーラ列車砲って知ってる?

マナ曹長に誘われた私とレウンは、第一層の上部にある吸血騎ハンガーに来ていた。普段芒月が格納されている第八小隊のハンガーよりも数倍の広さを持つ空間に、『はちまん』と呼ばれた輸送母艦が鎮座している。巨大な16輪の車輪で支えられた車体は、前半分には人間が乗ると思われる部分が、後ろ半分には巨大な扉が付いている。普段芒月が固定されているハンガーと同じものが扉からはせり出しており、4騎の吸血騎が既に固定されていた。周囲には整備士たちが忙しなく走り回って、支援機材の積み込みや機体調整を行っていた。
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上から見ると、漢字の「田」の四角の中に一騎ずつ収まっているイメージで。横にハンガーがせり出し、野外で最低限の整備ができ、第玖地砦内では吸血騎をラックから降ろさずにそのまま積み込めるという便利仕様。上は空いているので、緊急時は垂直に跳躍することで即座に出撃することが可能です。横の壁に武装を引っかけておく感じで

「案内していただけるのはありがたいんですけれど、マナさんは良いんですか?積み込み作業の方行かなくて」
「私の方はもう大丈夫、どちらかというと私はソフトウェア系の方だからね。この前の演習で二人がワイヤー使って少佐相手に大立ち回りしたでしょ?アレの戦闘記録を解析してモーションパターンとして組み込んでおいたんだ。後は各関節の動作補正を掛けて無理なく動かせるようにするだけだから、私がいなくても良いんだ。で、ヒマしてるなら君たち二人に『はちまん』について色々と教えてあげてほしいって少佐に頼まれたんだよ」
「なるほど、そういう事ならぜひともお願いします」
「ちなみに、今回の作戦は私も同行するからよろしくね」
「えっ、整備班のマナ曹長がですか?」
「普段は外には滅多に行かないんだけどね。今回は新型機の初の実戦って事もあるし、不測の事態に備えてって事。まあそういう事なんで、よろしくね!」

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「さて、それじゃ改めて今回の作戦についてもう少し詳しく説明しようか」

時間は1955、既に私たち第八小隊のメンバーは『はちまん』内部のブリーフィングルームに完全装備で集合していた。はちまんの中のその部屋はかなり狭く、私たち4人が入れば一杯になってしまうくらいだった。マナ曹長曰く、「寝るところくらいは確保されてるけど、それ以外のスペースはもう一杯一杯だからどこの部屋も狭いよ。まあたかだか半日だし、我慢してちょうだい」との事だった。
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この辺りの狭さは、潜水艦に近いかも。居住性を確保するために車体を大きくするというのは戦闘においては全くメリットがないので。軍用兵器だから致し方ないね。とはいっても、兵士のストレスは士気にも影響が出るので、長期間の作戦用に居住性を確保したタイプのふたあら型が現在開発中。長期間任務に使用することを想定していますが、今の人類は第玖地砦の周辺を2,3日調査するのが精いっぱいなので出てくるのは当分先になりそうですが

「まずは地上に出たら、約5km東に進む。この辺りまでは既に他の部隊が索敵を済ませているから結晶獣に出くわすことはまず無い」

ただでさえ狭いブリーフィングルームの中央で存在感を放つ机の上にPDFを乗せ、表示した地図を指し示しながら少佐が進路を確認していく。

「ここまで来たら、旧世代の幹線道路に出る。この道は傷んでこそいるものの、強度は十分かつ目的地への最短ルートだ。ここからは小隊を二つに分けて、前方の索敵と本隊の護衛を分担する。索敵班は3km索敵しつつ先行、安全確認が取れ次第護衛班は本隊と共に前進。合流したら索敵班と護衛班を入れ替えてまた3km前進、これを繰り返す」
「途中で結晶獣を発見した場合はどうなりますか?攻撃するんですか?」
「発見した場所や敵の数次第だけど、基本的には見つかる前に後退して本隊と合流、一度この幹線道路を降りて迂回する。交戦はなるべく回避だ」
「戦わないんですか?倒しちゃった方が安全だと思うんすけど」
「まあ場合によりけりだけどね、今回みたいな護衛任務の場合は基本的には可能な限り戦闘を避けて進むのがセオリーだ。仮に戦闘で機体を損傷したら索敵にも護衛にも穴を開けることになる。最悪の場合、即時撤退という事もあるからね。だから戦闘は基本的に回避する」
「ま、折角戦闘機動の訓練あれだけみっちりやったんだから、実戦で試してみたくなる気持ちはわからないでもないけどな。今回はとりあえず大人しくしといてくれよ」
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旧世代の道路の損傷はアスファルトの経年劣化によるものに加え、旧世代の人類が大型トラックで物資を運ぶのに使用していたから。過積載のトラックガンガン走らせてたら結構簡単に道路って傷むんですよ。迂回した場合には市街地を通るので狭く、進軍速度が落ちるけど遮蔽物が多いので身を隠す意味では悪くない選択肢。索敵が十分に機能していることが前提だけど。

不満そうな顔のレウンをサシバ少尉が窘める。私の方としては、戦闘は回避していいという事でほっとしてはいたが。

「最初の3kmはアタシとサシバが索敵班、新人二人が護衛。その後はアタシとレウン、サシバとシラハで組んで、アタシが先に出る方向で行こう。……っと、そろそろかな。ちょっと見せたいものがあるんだ。みんな付いてきてくれる?」
「ああ、アレ見せるんですね。今夜だったら丁度いいでしょ」
「そういう事、じゃあそこ上あがって」

少佐に言われるまま、狭いはちまんの廊下を進み、梯子で上を目指す。【索敵室】と書かれた扉を開け、少佐が中にいる男に声を掛けた。

「索敵お疲れさん、ちょっとココ借りていい?ウチの新人に見せてやろうと思ってさ」
「ああ、そういう事ですか。この辺りだったら汚染も問題ないレベルですし、構いませんよ。お二人さん、落っこちないようにね」

索敵室の男が部屋の奥の扉を開け、私たちを誘う。言われるがままに扉の向こうに出て、

「これは、凄いな……」
「ええ、凄いですね……」

そこには、天井が無かった。

どこまでも、どこまでも、際限の無く黒い。私たちが初めて見る、空。

幾つもの小さな光と、一際大きな丸い光が私たちの顔を照らした。星と、月。

振り返ると、空を突き刺す巨大な槍のような、白い塔が見えた。

「ちょうどあの塔の真下に第玖地砦がある。外から見たのは初めてでしょ?」

少佐が笑みを浮かべ、顔を出してきた。

「さて、第玖地砦から空の下に出てきた以上、ここはもう最前線だよ。二人とも、気合入れていきなさいよ!」
「「了解!」」
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地下で生まれ育った人間が、初めて空の下に出てきたという状況。外には空という天井のない空間と、昼間は太陽、夜は月と星というやつが空中に浮いているらしいと聞いて彼ら彼女らは育ちました

次回、チャプター3-5 ケア・テイカー
ご期待ください

MaEm

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