チャプター2-2 エア・カラテ

チャプター2
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//前回 チャプター2-1 ウォーミング・アップ

「何だ2人とも、ずいぶん時間かかったんじゃないの?」
「ええ、まあ……朝から死ぬかと思いました」
「大丈夫大丈夫、少佐はこんな事言ってるけど実際最初はみんなこんなモンだって。俺も初日は1時間半くらいかかったし」
「ま、ちゃんと辿り着けたから良しとしよう。さて二人とも、朝からハードワークでお腹減ってるでしょ?メシにしようか」

はしたない話だが、くぅううう、とお腹から音が鳴る。よくよく考えたら昨日の朝食から、牛乳以外に何も口にしていない事を思い出した。今の音は胃袋が固形物を寄越せと昨日の昼食に二人が食べていたメニューを思い浮かべる。

「アタシのおじいちゃんが昔よく言ってたんだけどさ、ハラが減っては戦は出来ぬっていうのがあるらしいんだわ。というわけで隊長命令。シラハ、レウン両二訓、朝ごはんお腹いっぱい食べなさい」
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いきなり二訓というワード出してごめんなさい。ここまで出す機会が全くなかったんだけどこれ階級です。二訓→一訓→上訓と上がっていく。詳しくはPDF見てください。こういうの出すタイミングってむずかしいね

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メインはホッケの開き、少し焦げ目の付いた表面から薄っすらと立ち上る香ばしい香り。その横には納豆にきゅうりの浅漬け、ご飯を進めつつ口の中をさっぱりと洗い流してくれる。味噌汁には油揚げと豆腐、単純ながらそれ故に飽きの来ない選択だ。そして中心にはピカピカと白く光る白米だ。立ち上る白い湯気と、ほんのりと甘い香りが食欲を掻き立てる。

「あらあら、アナタたちイスカちゃんのところの新人さん?吸血騎遣いはハードだからね、たくさん食べときなさいよ?ご飯とお味噌汁はおかわりもあるからね。ささ、温かいうちに食べちゃいなさい」
「悪いねおばちゃん、遅くなっちゃったのに用意してもらって」
「良いのよ良いのヨ!美味しく食べてもらえればそれで充分!」

騒がしいが人のよさそうな食堂のおばちゃんに促され、お箸を取る。どれも美味しそうだが、まずはとりあえず白米から。一口分を掬い上げて口に運ぶ

「……あっ、美味しい」
「なんですかこのご飯!もの凄く美味いっす!」

お箸を伸ばす手が止まらない。白米、ホッケ、ホッケ、納豆、味噌汁、浅漬け、また白米。空だった胃の中に温かい食事が流れ込んでいく感覚、本能が満たされていくのを感じた。ホッケの脂が蕩け、納豆の塩気が食欲をそそり、キュウリがさっぱりと口の中を綺麗にしていく。味噌汁は出汁が味を奥深く作り上げ、そこに入ってくる少し水分少な目に炊かれた米がテーブルの上に並んだおかず全てを引き立てる。

「あらヤダ、そんなに美味しかったかしら?でもそんなに急いで食べること無いわよ。ゆっくり食べてちょうだいな」
「そうは言っても、このホッケが旨すぎるんですって!あーもう、ご飯お替り貰っていいっすか!?」
「あっ、私もお願いします!」
「はいはい、ちょっと待っててちょうだいな」

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「さて、それじゃあさっきも少し言ったけど改めて、今日のスケジュールから説明しようかね」

食後のお茶を飲みながら、少佐が私たちのPDFにデータを送ってきた。
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もちろんペーパーレス。こんな便利なものが実用化されている世界なので紙なんてほとんど使わない、というか限られた資源が勿体ない。

「今日は午前中は実際に吸血騎に乗って基礎的な訓練、午後は座学をやる。今日はアタシが教えるけど、内容によってはサシバがやったり昨日のマナがやったり、あるいは別の人呼んで教えてもらう事になるからよろしく。」
「基礎訓練っていうのはまあ初日だし、前後左右に機体を動かしたりとか、少し速度出して走らせたりとかそんなんだからそう難しくは無いから安心していいよ。座学は第玖地砦についての事とか防衛施設の概要とか、そんな感じだね」
「さてと、それじゃあ腹ごしらえも済んだことだし移動しますか。吸血騎はもう搬送されてあるはずだから、後は吸血騎遣いが行くだけと」
「あの、行くってどこにですか?」
「第一層の外側の訓練用区画、だいたい車で30分ぐらいかな」

顔から血の気が引くのを感じた。横を見るとレウンも同じような顔をしている。あれだけ食べた後に少佐の運転に乗ったら、確実に吐く。

「ハハ、さては二人とも少佐の運転で相当怖い思いしたな?そんなに心配しなくても今日は俺が運転するから大丈夫だよ」
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「こちらシルバーグラスリーダー、フライト08応答願う」
「フライト08よりシルバーグラスリーダー、良好ですよ少佐」
「シルバーグラスリーダー了解、シルバーグラスリーダー、スリー、フォーのヒートコンデンサー始動許可願う」
「フライト08了解、空域の安全確認が取れ次第許可を出す。そのまま待機せよ」
「シルバーグラスリーダー了解、このまま待機する」

「えっと、今のは何なんですか?」
「俺知ってます、管制通信ですよね?」
「レウン正解、もう少し詳しく言うとシルバーグラスリーダーっていうのがアタシ、フライト08が今このエリアの管制室にいるサシバ、スリーがレウンでフォーがシラハね」

朝食の後に車と外層シャフトエレベーターで移動したのは、第一層の外側にある訓練用のエリアだった。ちなみにドライバーはサシバ少尉。若干荒い部分もあったものの、昨日と同じ車種とは思えないぐらいに丁寧で落ち着いた運転だった。

到着した訓練区画は、市街地を模して作られたというビルがいくつも立てられた空間だった。第一層中心部ほどではないものの高いビルが並び、道もかなり太く作られている。しかし、何よりも目を引くのはそのビルや道の色だった。建物そのものは灰色のコンクリートか何かで出来ているようだったが、そのほとんどがどぎついピンクや緑の蛍光色のまだら模様に彩られていたのだ。
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この世界はイカに支配されていたりはしないが、あのカラーリングは被弾箇所が一目で判断しやすいため採用。マンメンミ!

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「ああ、あの色?あれはペイント弾の流れ弾だよ。まさか訓練で実弾使って撃ち合いってわけにも行かないからね。その代わりにああいうのを使って訓練するって事」

ハンドルを握る少尉のレクチャーを聞いている間に、目的地に到着した。メインの通りからは少し離れた場所に、他のビルより二回りぐらい高いビルが建っている。このビルだけペイント弾の跡が見られない。ビルの横には昨日見た燕柳が一機、そして芒月が二機、運搬車両の上に寝た状態で運び込まれていた。更にそれとは別にクレーン車が一台、短い五角柱のようなものが3つ載せられたトラックが一台停車している。トラックの下では整備兵が忙しなく動き回っていた。よく見るとトラックの一台の上に乗ったマナさんが、PDFを見ながらテキパキと指示を出している。

「うーっし、到着。中の更衣室に装備は届いてるはずだから、着替えたらまたここに集合ね」

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「フライト08よりシルバーグラスリーダー、安全確認終了。ヒートコンデンサー接続およびリンク開始を許可する」
「シルバーグラスリーダー了解、二回目だし大丈夫だとは思うけど一応新人二人のバイタルチェックよろしく」
「フライト08了解、二人とも、何か違和感があったらすぐに報告するように」
「ウッス!じゃなくて、シルバーグラススリー了解!」
「えーっと、シルバーグラスフォー了解です!」
「おっ、いい返事。見様見真似にしては上出来じゃん」

差し込んだPDFを押し込み、リンクを開始する。肩に昨日と同じ衝撃が走るが、昨日ほどの痛みは感じない。血液が吸われていくのを感じるが、これも昨日のような吐き気などは起きなかった。

「こちらフライト08、シルバーグラススリー、フォーのバイタルは現在正常値。二人とも違和感は無いかい?」
「はい、私は大丈夫です」
「俺も大丈夫です、昨日に比べたら肩の痛みぐらいで全然平気ですね」
「それなら良かった、じゃあ次にコンデンサーっていうパーツを接続するよ。人間で言うとちょうど腰の後ろぐらいの場所だ。人間には存在しないパーツだから少し違和感があるかもしれないけど、ちょっと我慢してくれ。試しに後ろ見てみてくれるかな」
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メインのジェネレーターが外付けというのも随分変わった構造だとは思うが、これはエネルギー切れや被弾した際に後方に戻って別のコンデンサーを装着、すぐに前線復帰するための構造という事で。デカくてスペースを食うこいつを外付けにすることで、各部位の駆動範囲と柔軟性を確保するという目的もある。

振り向くと、先程の五角形の柱がクレーンに持ち上げられているのが見えた。あれがそのヒートコンデンサーという部品だろう。

WEEEEE……
GACHA!

まずはレウンの芒月に近づけられ、接続される。

「どう?気分は」
「うーん、痛いとかそういうのは無いですけど、なんかこう重いというか後ろに引っ張られているというか、そんな感じですね」
「まあそれもそのうち慣れるよ。じゃあ次はシルバーグラスフォーだね」

二つ目のコンデンサーが吊り上げられ、接続される。機体にぶつかった瞬間、軽い衝撃を腰に感じた。なるほど、昨日は吐き気でそれどころではなかったが、吸血騎とのリンクというのはこういう事だったのだと実感した。

「シルバーグラス全機、リンクおよびコンデンサー接続完了。それじゃあ適当に動かしていくから、データ記録とモニター頼んだわよ」
「了解です、全機、リミッター開度を0から15へ。それでは少佐、後はご自由にどうぞ」
「あいよ、それじゃあ始めますか。まずは右手のスティック、少しだけ前に倒してみて。他のところは触らないように」
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ここでのリミッターとは、管制側からヒートコンデンサーの最大出力を制御して不用意な暴走を防ぐため。新兵が操作ミスで最大出力で壁に激突したりしたら困るので採用した。

言われた通りに、軽く手を添えて少し前に倒してみた。すると、今度は足を何者かに前に引っ張られるような感触。

「右手で前進後退、左右への移動を制御している。どう?慣れないとちょっと気持ち悪いでしょ」
「えーっと、何かこう、右手が自分の足になったような感覚というか。そんな感じですね」
「ああ、俺も似たような感じです。実際の自分の足は動いていないのに、前に歩いているような感覚だけが来ているというか、そんな感じっすね」
「まあ乗ってればすぐ慣れるから心配しなくても良いよ。それじゃあ、アタシに付いてくるように動かしてみて。まずは前から」

QUI、QUI、QUI!

前進、後退、左右移動と。感覚としては奇妙ではあったが、だんだんと慣れてきた。
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本体の足の感覚が残っているのにそれとは別に足を動かしている感覚がある、というのは相当不思議な気分になると思う。これを文章で表現するのは、相当難しい

「よし、右手はそれで良し。それじゃあ次は首のほう行こうか。あっ、これは吸血騎じゃなくて人間の身体の方ね。首をひねって右を向く、左を向く、上下、これは大丈夫?」
「そりゃあまあ、自分の身体ですからね」
「じゃあ次、左手のスティックをまた少し右に。すると機体そのものが右を向く。左なら左、上を向きたいときは後ろに倒して、下なら前」
「えーっと、これも何だか気持ち悪いですね」
「おっとシラハ、今首が傾いたでしょ?結構慣れないといるんだよね。機体動かすと本人も動くタイプ」
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マリオカートとかやってる時に首がついつい傾いちゃうアレ。

言われてみて気が付いた。全く意識していなかったが、自分の身体の方が動いていたようだ。

「それじゃあ最後に足元のペダル、三つあるでしょ?そのうちの右と左に足を乗せる。そうしたら背中、あー違うわ。左右の腰に意識を集中して、両方一気に踏み込む」

言うのと同時に、シラハ少佐の燕柳が垂直に、機体の高さの三倍程度飛びあがった。後ろから綺麗な青い光の線を引き、まっすぐに。

「っと、こんな感じにこうすると垂直に跳躍する。着地する時は一気にペダルを離すとそのまま落っこちるから気を付けるように。さて、やってみ」
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もしこの作品がアニメ化されたとしたら、AKIRAの有名なバイクのテールランプが尾を引くあのシーン、あれを青くしたような感じになると思ってください

2人で同時に言われた通りの操作をして、二種類の現象が起きた。

まず、私の芒月。起きたと言ったが、より正確に言うと「何も起きなかった」と言うのが正しいか。全く正反対の言い方じゃないかと自分でも思うが、自分でもそうとしか説明が付かない。首だけ後ろを振り返ると、自分の機体の腰からうっすらと青い光が漏れているだけであった。それ以外は、ピクリとも動かない。

次にレウンの芒月。何かが起きたという点ではこちらの方がわかりやすい。垂直に跳躍するはずだった芒月は、右側に大きく側転を始めた。シルバーグラススリーの右側、つまり私の芒月が立っている方向へ。

GASHAAAAANG!!!

とっさに右手を前に倒し、前進させることができたのはほとんど奇跡と言っても良かった。側転した芒月は、そのまま頭からビルに突っ込む。もし回避していなければ、ビルの代わりに私の芒月が衝撃を受け止めていたはずだ。

力が抜けたように、レウンの芒月は崩れ落ちた。

「あー、シルバーグラススリー聞こえてる?俺もまあ最初はそんなモンだったよ。別に気にしなくても大丈夫だよ」
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シラハ機が動かなかったのは腰への集中が上手くいっていなかったから、レウン機は左右のイメージのバランスが崩れていたため。機械を動かすのに集中する意味はまた後述

次回、チャプター2-3 シェルター・09
ご期待ください。

MaEm

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