//前回 チャプター2-6 ブラッド・タイプ
「今日やってもらうのは、鬼ごっこだ」
「鬼ごっこって、あの逃げ惑う相手を追いかけまわして触って仕留めるアレですか?」
「まあ概ね合ってるけどさ、シラハあんた真面目そうな顔して案外ムチャクチャ言い出すタイプね?」
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毎回のごとく朝起きて第一層を上から下まで上り下り、その後美味しくてボリュームたっぷりの朝食、お腹に栄養を十分に補給して芒月に乗る。
軍に入隊してから既に4日、ある程度ここの暮らしにも慣れてきた。とは言っても、さすがに疲労もだんだんと溜まってくる。吸血騎の制御はとにかく脳と身体に負担がきた。
サシバ少尉曰く「脳の疲労は制御する部位が増えたからだろうね、手足が余計に生えたようなものだからどう動かすのかで脳の処理量が増えるんだから疲れるのは当然。その内自分の身体同然に使いこなせるようになれば疲れもなくなるよ。身体の方は加減速荷重を受けることによる負担かな、こっちも段々慣れていくからそれまでの辛抱かな」との事であった。
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「まあとにかく、鬼ごっこだ。ただし当然だけど吸血騎に乗ってやってもらう。っと、その前に二つ説明しとかなきゃならないことがあるんだった。二人とも、サブモニター見て頂戴」
膝の上の位置に固定されたモニターを見ると、見慣れない表示が三つある。一つには放電硬化ワイヤー、一つにはディフェンスブレード、最後の一つには徒手と表示されていた。それが左右に一つずつ。
「まぁ見ればわかると思うけど、それで武装を選択できる。WCU、ウェポンコントロールユニットの操作パネルだね。試しに両方のディフェンスブレード装備してみて?」
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少佐に言われた通りに二か所をタッチしてみる。
ZYAG,ZYAG!
正面モニターに映ったレウンのシルバーグラス3の腕の装甲が開き、中から細長いアームが伸びるのが見える。アームの先端には大振りなナイフが取り付けられていて、両手に握りしめられた。いや、芒月に手が無いので握るというのは不自然かもしれない。とにかく、腕の先端を覆うようにナイフが取り付けられる。ナイフの先端には芒月の手足と同じように黄色い保護パッドが取り付けられ、衝撃を吸収するようになっていた。
伸びたアームはその役目を終えると、スルリと腕の中にしまい込まれる。そのまま装甲が閉じ、元の位置に収まった。自分の腕(この場合はモニターに映った私の芒月の腕だ)を見ると、同じように両腕にレウンと同じようにナイフが取り付けられている。
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「ディフェンスブレード、元々は第2世代機で不意の近接戦闘に陥った場合の防御用兵装。敵の攻撃を刃で受けて「切り払う」ように使う。まあ緊急防御用で本来はそんなに積極的に使うような装備ではないんだけどね……我らが隊長殿はそれで突っ込んでは吸血騎をブチ砕いてきたりする」
「ブレードで相手の防御無理矢理こじ開けて至近距離から射撃を叩き込めれば、単騎でも頭脳型倒せるじゃないの」
「と、まあ本人はああ言ってるんだけどね。これやられると燕柳だと関節強度が足りなくて一回出撃ごとに全オーバーホール。全く、誰がメンテすると思ってるんだか……」
シルバーグラス2、サシバ少尉がぼやく。
「と、まあ文句言うのはこれくらいにしておいて、第2世代機だと格闘戦は積極的に行うようなものではないと。でもその第3世代機、芒月は違う。元々格闘戦を想定して設計されているからある程度の無茶もできるようになってる」
「ちなみに芒月で格闘戦ができるようになったのは、アタシの燕柳で近接戦闘強化関節の実験したデータのフィードバックね」
「それと俺と整備班の人たちが徹夜でメンテしたから。まあとにかく、そいつはディフェンスブレードで格闘戦ができる。鬼ごっこするのにタッチのリーチが伸びるのは良い事だろ?」
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なるほど、つまり逃げる少佐たちに私がディフェンスブレードを当てられるか、という事だろう。
「もう一つの、放電硬化ワイヤーってのは何なんすか?」
「あぁ、そっちも説明しようか。放電硬化ワイヤーは燕柳だと背中、芒月だとさっきディフェンスブレードが格納されてた腕の中と腰に装備されてるんだけどね。ちょっと見せるから待っててくれ」
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そう言うと、少尉は燕柳を近くにあったビルの屋上に跳躍させた。見る限り、40m程はあるだろうか。
「まあ文字通りワイヤーを射出するんだけども、射程は大体10mくらいしかない。風なんかの条件次第ではもう少し短いくらいか。今ちょうど、このビルの屋上にワイヤーを打ち込んだところ。それじゃあよく見ててくれ」
そう言うと、少尉は背中側から燕柳で飛び降りた。流石にあの高さは吸血騎に乗っていても危ない……!
BEEEENG!!!
5m程飛び降りたところでワイヤーに吊り下げられ、機体が停止する。そのままスルスルとワイヤーを伸ばし、燕柳は地面に降り立った。
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「打ち出す射程は10mくらいだけど、一度固定すれば最大で300mは伸びる。強度も燕柳を2機ぶら下げて振り回しても切れないくらいにはある。まぁ使い方は人それぞれだけどね」
「さて、それじゃあ説明はこれくらいにしておこうか。さっそく鬼ごっこ、始めようか。ルールは2対1、アタシの燕柳に二人のうちどちらか一人が少しでもタッチできたら勝ち。フィールドはこの演習場全域、時間は昼まで。リミッターはそうね、二人は昨日まで15だったから30まで開いてみようか。アタシの燕柳は……5で良いかな」
勿論私たちがハンデ無しで勝てると思っているわけではない。しかし、いくら何でもこの条件は差が開きすぎと言って良いだろう。
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いくら戦闘職種を希望していなかったとはいえ、勝負事でここまで舐められてムキにならない程人間が出来てもいない。先生の所にいた頃は、鬼ごっこなど年下の子達と何度もやって、少しは自信がある。
そして、ムキになっているのはレウンも同じだった。
「いいんですか少佐?俺たち遠慮しませんよ?」
「おぉ、威勢良いねぇ。ま、昼までその元気が残ってるといいけどね。それじゃ、用意……スタート!」
次回、チャプター2-8 マリオネット
ご期待ください
MaEm
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