チャプター2-1 ウォーミング・アップ

チャプター2
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//前回 チャプター1-5 インストラクション・ワン

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このタイトルニンジャスレイヤーで見たことあるだと?うるせいやい吸血騎の操縦もスリケンも反復練習が大切なんじゃい

枕元の充電器に繋いだPDFを掴む。時刻は5:59、セットしていたアラームの丁度一分前だ。早起きして農作業や朝食の支度をする習慣からか、いつも起きる予定の1分前には目が覚めるがどうにも損したような気がしてならない。

PDFを操作してアラームを解除し、起き上がって伸びをしようとして、

頭部を強かに天井に強打した。

「痛っっったぁぁぁ…………」

想定外の衝撃に、朝から頭を押さえて転げまわる。転げ回っている間に痛みが少しずつ引いて、同時に周囲の風景が視界に入ってくる。それを把握したのち、私は今度は天井に気を付けつつ上半身だけを起こした。

奥行2m、幅も2m、さらに備え付けの収納が付いているので実質的な広さは3mといったところか。天井高さは1m、迂闊に立ち上がろうとすると先程のように頭をぶつける羽目になる。この空間が、私や他の兵士に与えられたスペースだ。奥の壁際は全面モニターになっており、PDFで表示内容を変更できるとのことだったが今は黒く沈黙している。後で何か試してみるとしよう。
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ネットカフェやカプセルホテルより一回り大きいくらいの部屋、立って半畳寝て一畳よりは広い。文字通り寝るための空間。あまりにも狭い気もするが、休日はベッドの上でほとんど生活が完結する!なんて人種も結構いるので。食事や風呂トイレは別のところだし案外できるような気もする

紺色の上下の寝間着の紐を解き、代わりに畳んで片付けておいた制服に袖を通す。狭い部屋の中で苦労しながら服を着替え、最後に赤く光る石の付いた紐で髪を括り、備え付けられた鏡で確認する。うん、身だしなみは完璧だ。部屋のドア、というよりシャッターを跳ね上げて身体を外に出し、はしごを4部屋分降りる。
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この服は意外と快適、とはいってもあくまで部屋着やパジャマの範疇を出ないけど。MaEmもたまにこれ着て寝てます

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昨日は試験終了後に「胃が丸々無くなったような吐き気」を抑えつつ昼食(牛乳コップ一杯だけ)をとり、その後イスカ少佐に伴われて軍施設の見学を行った。食堂から始まり発令室、吸血騎の調整を行うメンテナンスルーム、作戦前後に計画を立て、その後結果を報告検討するためのブリーフィングルーム、部隊の電源を一手に管理する電圧制御室、吸血騎への指揮を執るための発令室など。半日を掛けて、なぜかやたらと複雑に作られた施設を見て回った。安全帯を付けて細い橋を渡ったり梯子を上り下りしたりするのには、精神的には慣れたものの肉体的には相当に負担がかかる。ちなみに、夕食も食欲が戻らずにレウンと二人牛乳、あとトーストを1枚食べただけだ。

一日かけて歩き回った身体で、最後に案内されたのが兵士用の宿舎(当然だが男女別)、2×3×1mの個人用の部屋だった。そんなサイズの部屋、あるいは箱が縦に5個、横にいくつも積み重なっており、上の階の出入りは梯子を使うというわけだ。

「私物は既に入ってる、シャワーとトイレはあっちの突き当りを右ね。部屋の鍵はPDFで開閉できるから失くさないように、明日の朝は入り口に6時半集合。まあこの場合は軍だと0630マルロクサンマルとかって言ったりするんだけどね。そんじゃあ後はごゆっくり」
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1(ヒト)2(フタ)3(サン)4(ヨン)5(ゴ)6(ロク)7(ナナ)8(ヤー)9(キュウ)0(マル)

それだけ言うと、少佐は梯子を下りて自分の部屋に戻っていく。聞きたいことは色々とあったが、少佐がもう帰る気でいたことや私自身も相当に疲れていたことから、明日でいいだろうと思いさっさと寝てしまう事にしたわけだ。

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「やあやあ新人諸君、おはよう!朝の調子はどうだい?」
「眠いっす、あと30分くらい寝させてもらえれば万全になりそうです」
「私は平気です、というかレウン君寝たの何時ですか?」
「23時には寝たけどさ……なんでそんなに寝起きでシャッキリしてるの?」
「私は実家が農業だったから、あとは朝ごはん作ったりもしてたからですからね。早起きは慣れてるんです」
「ちなみにこの人の場合、朝から元気なんじゃなくて24時間元気ってのが正解ね。おはようございます少佐、二人はよく眠れた?」

後ろからサシバ少尉が片手を上げながらやって来る、もう片方には何かの箱を抱えていた。PDFを見ると時刻は6時27分、初日という事もあるかもしれないが、ここの人たちはどうやら時間にはそれなりに正確らしい。

「さて、まずうちは勤務時間のシフトにもよるけど基本的にこの時間に集合、朝は30分くらい軽い体操とトレーニング、その後朝食ね。今日は午前中は実機トレーニング、午後は座学になるんでよろしく。何か質問は?」
「えっと、こういうのって普通は先に座学やってから実践じゃないんでしょうか?」
「んー、まあ普通はそうなんだろうけどね、吸血騎に関しては習うより慣れろっていうような部分が多いんだわ。その辺は後で説明するから大丈夫」
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理論を先に学んでそれから実践することで、習った理論を感じながらそれを知識として改めて習得する、というのが最も効率の良いやり方であると思うが吸血騎に関しては例外となる。理論的な部分も重要だが、肌感覚的なところも多いため。

まあそういう事ならきっとそうなんだろう。無理矢理納得することにする。

「それじゃあ隊長、まずは準備体操からですか」
「そういう事、とりあえずこの音楽に合わせて身体を動かすんだけども、最初はとりあえずアタシとサシバの真似しておいてくれればいいから」
「あっ、この曲俺昔聞いたことあります。昔の人ってこれに合わせて運動してたんスよね」
「話が早いじゃん、じゃあ始めるよ。腕を上げて1、2、3、4!」

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私は初めて聞く音楽だったが、何とか二人の見様見真似で体を動かしてみる。旧時代の体操というのがどんな物なのかと身構えていたが、なるほど。単純な動きのようで身体全体をバランス良く動かせるようになっているらしい。最後に深呼吸をする頃には、ちょうどいいくらいに全身が温まっていた。

「そうしたら次は、どういうルートを通っても良いからあそこまで行くっていうトレーニングね」
「えっと……あそこって真上のあそこですか?」
「そう、行って帰ってくれば丁度朝ごはんぐらいの時間だから。まあ順調にいけば、だけど」

少佐が伸ばした指先は、目測で50mくらい高い所、ほぼ垂直なところの建物を指していた。サシバ少尉がニヤニヤしながら足元に置いた箱を開けると、中には例の安全帯が4人分。なるほど、朝からこれはトレーニングというにはかなりハードな内容だ。

「まあ好きなルートで行っていいと言っても、最初は困るよな。とりあえずは俺たち二人に付いてきていいからさ」
「ただし、アタシたちは最短距離よりも少し遠回りしながら行く。もしこっちのルートのほうが近い!とかって思ったら遠慮なくルート外れても良いよ」
「もしそれで途中で迷子になった時は?」
「PDFに位置情報送ってあるから、それを見れば方角だけは教えてくれる。とは言ってもそれで出てくるのは方角だけだから、ルートは自分で決めるように。あとはコレ、はめといて」
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PDFで見れるのは、縦横だけでなく高さも見られる方位磁石のようなものだと思ってくれい。方角だけわかっても道の選択は自由

少佐が私たちに何かを放ってきた。受け取ると、指の部分に穴の開いた手袋だった。手のひらのところには滑り止めが付いている。上り下りの時に使えという事だろう。

「うーし、まずはあそこの梯子まで行こうか。安全帯はしっかり使うように」
「吸血騎遣いっていうのは朝からこんな事やってるんですか……」
「いつもならもっと高い所まで上がるんだけどね、初日だしこんなモンで」

なるべく下を見ないように気を付けながら、最初のロープに安全帯を通した。

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「あっ、少佐!おはようございます!」
「おはよう、今朝はどこまで?」
「俺は今日は一番下まで降りてから第3食堂です。そっちの小隊は?」
「今日から新人二人いるから少し軽めにね」
「なるほど、そっちの二人がそうですか。この人平気な顔してムチャクチャ言い出すから頑張って付いていってね。それじゃあまた今度」

所々ですれ違う人に声を掛けられた。しかも、その全てが好意的な語り口だった。私の第一印象と違って、少佐へ声をかける人たちは皆好意的に接しているようだ。私たち新人にも気さくに声をかけてくれるが、こちらとしては朝から梯子を上り下りし細いつり橋を渡らされて体力的にはほとんど限界。曖昧に微笑みを返すのが精一杯だった。

「なあシラハちゃん、ちょっとあそこの見てみてくれない?」
「あそこのって、あの梯子ですか?」
「これ、向こうに行くよりも距離短くなりそうな気がするんだけど、どう?」
「上がった後はどうします?ルートは無いみたいですけど……」

梯子の先を辿ってみると、なぜかそれは途中で途切れていた。道は無かったが、代わりに梯子には細いワイヤーが結び付けられ、隣のビルの壁まで伸びている。

「高さはこっちの方が高いでしょ?たぶんだけど、あのワイヤーに安全帯引っ掛けて向こうまで滑って行けるんだと思う。この手袋はワイヤーで手のひらを切らないようにするためってわけ」
「まあ確かに距離的には早そうですけど……向こうのビル行った所で壁ですよ?」
「少し遠くて見づらいけど、足を掛けられそうな出っ張りが付いてるしワイヤーもあるから安全帯が付けられる。ルートは自分で考えて良いって多分そういう事じゃないかな?」

レウンがPDFのカメラを起動してズームする。PDFの機能は一通り使ってみたつもりだったが、なるほど。この使い方は思いつかなかった。少佐たちの方を向いてみれば、二人して微笑んでいる。正解だから笑っているのか、あるいは間違いなのかはわからない。だが、試してみる価値はありそうだった。
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PDFは手ブレ補正も優秀って事にしといてくれ。最大望遠で手持ちでやるとブレがひどいと思う

「わかりました、それじゃあ一緒に行きましょう。でも、無理そうだったらその時は素直にここまで戻ってくる。それでどうですか?」
「了解、いくら安全帯着けてたって落ちたら流石にヤバいもんな」
「そういうワケで、私たちはちょっとあっちのルートにしてみます」
「よーし、了解了解。それじゃあまた上で会おうか」

このルートが吉と出るか凶と出るかはわからないが、レウンの後ろに付いて、意を決して梯子に手を掛けた。

「それじゃあとりあえずは俺から行くよ。大丈夫そうだったら後から付いてきて」
「わかりました、一応もう一回後ろ見せてください。安全帯チェックしますので」
「わかった、じゃあ終わったら俺も見るから」

梯子を上り切ったところで、安全帯の相互チェック。問題は無さそうだった。

「うーし、それじゃあ行ってくる」

フックを取り付け、ワイヤーを握る。そのまま体を投げ、一気に滑り降りていった。

「聞こえるー!?大丈夫そうだよー!」

30mほど先から、レウンの叫ぶ声が聞こえてきた。男女差から私より一回り大きい体格のレウンで大丈夫なら、私がやって途中でワイヤーが切れるという事もないだろう。もう一度フックを確認、二本とも繋がっている。

「よし、覚悟完了。せーのっ!」

身体を空中に投げ出す、思っていたよりもずっと速度が出る。思わず放しそうになった手を緩めないように自分に言い聞かせながら、空を飛んだ。

「大丈夫だった?」
「ええ、私は平気です。それよりも次、この足場、というより出っ張り。本当に大丈夫なんですか?」
「うーん、多分。安全帯も掛けられるし、このワイヤー自体も手すり代わりになるしね。第一、よく考えたらこっちのほうが低いんだから戻るよりこっちに進んだ方が良いと思う」
「不覚、滑る前にもう少し考えておくべきでした……」

仕方ないので、進むことにした。道幅は20cmくらいだろうか。昨日通った手すり付きの橋が親切に思えてくるぐらいだった。

「っと、まあ細いは細いんだけど通れないわけでもないな。多分こっちで合ってるよ」
「あのっ、もう少しゆっくり行ってもらってもいいですか!?さすがにこれはちょっと怖いです!!」
「そんなビビらなくても、ちゃんと安全帯だって付けてるし平気だって。慣れてくれば結構平気……っあ」

思わず目をつぶる。案の定というか何というか、目の前でレウンが足を踏み外した。腰から伸びたロープで宙吊りにされる。

「っぶねー!死ぬかと思った……ごめんシラハちゃん!悪いんだけど引っ張り上げてくれない?」
「この状態でですか!?下向くだけで怖いのに、人間1人引っ張り上げろと!?」
「いやだって、このまま宙ぶらりんってわけにも行かないし……」
「うぅ、わかりました。一つ貸しですからね」

なるべく下を見ないように、足はしっかりと突起に付けて、どうにか手を伸ばす。あと3cmで手が届く。2cm、1cm……

「もう、ちょっと……あっ」

浮遊感。

「んーと、この後どうしようか?」
「……どうしましょう?」

次回、チャプター2-2 エア・カラテ
ご期待ください

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MaEm

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