//前回 チャプター2-4 パースエーシブ・パワー
「それじゃあ次、近接戦闘訓練始めるよ。まずはゆっくりやって見せるからそこで見てるように。シルバーグラス2、ちょっと手貸してー」
「了解、俺が受ける側で良いですか?」
そう言うと、少尉の燕柳が前に出てきて構えを取った。両足を軽く開いた状態で、右腕は前に伸ばして左腕は胸の方へ。顔より少し低いぐらいの位置に置く。対するイスカ少佐の燕柳も、向き合って同じような態勢に構えた。
//
「近接戦闘、とは言っても基本的にこれはこちらから仕掛けるような技術じゃない。どちらかと言うと攻撃じゃなくて防御のための技術なんだけどね。まずは右腕見てて」
//
少佐がそう言うと、燕柳の右腕を後ろに引かせた。左腕と同じ位置に構えを変える。
「さっきの腕を伸ばした状態は、相手の攻撃を払うための位置。今の状態は両腕で胴体を防御するための位置って事になる。この状態で、腕を伸ばすと……」
BUNG…
「と、こういう風に前に打撃を出せるわけだけど。これは攻撃としては正直あんまり良くない。なんでだかわかる?」
「なんでって……そりゃあ、腕伸ばしただけじゃなくて足も踏み込まないと打撃に威力が乗らないって事じゃないっすか?」
「その通り、今のはただ単に前に腕を伸ばしただけだからそんなに威力は無い。ならどうするか?レウンの言う通り、前に踏み込んでやれば良い。サシバ、準備良い?」
「いつでもどうぞ、でも軽めにお願いしますね」
「わかってるって、せーのっ……」
//
BUNG、GANG!!!
一瞬、視界が追い付かないほどの速度の突き、腕を伸ばすのと同時に前進噴射を掛けたようだった。背中から青い光がたなびく。
少佐の放つ打撃は、少尉の燕柳の右手に吸い込まれる。伸ばした側の手で受け止め、それと同時に腕を外側に振って払った。胴体の防御が開く。
//
「……と、今のがさっき言った攻撃を払うための位置って事ね。それより少佐、軽めって言ったじゃないですか……」
「あんなモンで音を上げるんじゃないっての。さて、今は途中で止めたけど今度はもう少し続けてみるからよく見ておくように」
「俺近接戦闘苦手なんですけどね……」
ぼやきつつ、二人は再度距離をとって構える。
TAN……BUNG、BUNG!
今度は左右の連続打撃から少佐が仕掛ける。腕を引いてその二発を受け止め、
TAN BUNG!
回り込んでからの、左からの打撃。少佐は受けずに、後ろに燕柳を飛びのかせて回避する。着地と同時に前進噴射し、即座に一瞬だけ後退を掛けた。左足の低い蹴りで、足元を狙う。
DANG……GAAAAANG!
BEEEEEEEE!!!!
少尉が足を払われバランスを崩されたところに、右手の正面突きが突き刺さる。胸部に取り付けられた対衝装甲に打撃が入り、警告音が響いた。
「ハイ終了。格闘戦はだいたい今みたいな流れでやるから、後は二人にも覚えてもらうだけ。サシバ、だいじょーぶ?」
「ッテテて……こけた時に後頭部ぶつけました。ってかこれ、よく考えたらどう考えても俺に不利ですよね?少佐の燕柳、近接戦闘強化関節入ってるじゃないですか……」
「不利な状態でも生き残れるように部下を鍛え上げてやってるだけですー、アタシは悪くなーい」
二人は軽口を叩き合っているが、見ている私たちからすればとんでもない事が目の前で繰り広げられていた。私たちからすれば、現状動かすだけでやっとの吸血騎。それを使ってあれだけの打撃戦を繰り広げたのだ。しかも、最初の二発の打撃から決着が付くまでに5秒とかかっていない。
//
「これを私たちはやらないといけないんですね……」
「不安?ま、習うより慣れろさ。さて、やってみ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それじゃあ、今まで触らせていなかったけど左右グリップのボタンについて説明しようか」
改めて、握っていた左右のグリップを見る。人差し指から小指のそれぞれに対応する位置にトリガーが4つ、親指部分にだけは2つ。それが左右あるので合計で12のトリガーが存在していた。
「現状のアサインでは、親指から中指で腕を操作している。それぞれ、正面に突き出す、引いて縦に構える、横に構える、だ。薬指と小指は脚部の操作で、膝でガード、伸ばして下に蹴りを出す」
少佐が燕柳を片足立ちさせ、上げた膝を正面に向ける。そのまま更に、中段への蹴り。
「親指のところの二つ目のトリガーは何ですか?何も当てはまってないみたいですけど」
「そこは拡張用。試作機体にはよくある仕様なんだけどね、後からこういう機能が欲しい!ってなったらそこに追加する。逆に、この機能は要らない、他の操作で代用できるとなったらアサインを削除するかもしれないけどね」
//
複雑極まりない操作系統に戸惑いつつも、習うより慣れろという言葉を思い出してみることにした。先程見た構えを再現するように、左手を引いて縦に構え、右は正面に伸ばしてみる。身体の方はどこに向けようか少し考えたが、レウンがこちらに向けているのを見て向き合うようにしてみた。
「動かしている最中に違和感があったり、こういう風に操作したほうが良いんじゃないかという案があったら遠慮なく出してほしい。それも含めてテストパイロットのお仕事ってことで。それじゃ、さっそく打ち合ってみようか?」
「了解です、それじゃあシラハちゃん、行くよ」
「はい、いつでもどうぞ」
とは言ったものの、まずはどう動くのが正解なのだろうか?少し考えたうえで、伸ばした腕は一度引くようにしておこうと思った。一度レウンの攻撃を受けて、そこから
PASH!
正面突きが右腕に突き刺さる!防げたのはほとんど偶然と言って良いだろう。踏み込みが軽く、さほど威力が乗っていなかったのも幸いした。
「ちょっ、いきなり何するんですか!?」
「いつでもどうぞって言ったのは、そっちで……しょっ!」
確かにその通り、ならばこちらから反撃しても良いだろう。構えを作り直し、隙を伺う。正面から打ち込んでも、おそらく防がれる。なら横か、あるいは……
TAN……
まずは一歩踏み込んでやる、だがこれはレウンの防御を誘うための仕掛け。
「正面からなら防げる、一発受けたらそこに反撃を……えっ!? 」
踏み込むと同時に、両膝でガードを同時に行う。さっき見た膝でのガードで、少佐は片膝を縮めていた。ならそれを両方、同時に行えばどうなるか?しゃがんだ状態で、相手のガードの下に潜り込める!
「ここに踏み込んで、膝に!」
伏せた状態では打撃に威力は乗らないが、足元なら関係ない。少しでも態勢を崩せば……
DANG!DANGGGGGG!!!!
//
「はい、そこまで。それにしても、膝の防御を両方だしてしゃがめるってよく気が付いたんじゃないの、どのタイミング?」
「正面からだと防がれると思って、最初は横に回り込んでみようと思ったんです。でも防御の向きを変えられたらあっさり止められる。それなら正面から突っ込むと見せかけて、姿勢を崩すことを狙ったら良いんじゃないかと思いまして」
「なるほどね、良い考え方じゃない。今回は両方の膝の防御を同時に、っていう操作だったけど他にも組み合わせることで別の動作をさせることはできる。まぁ、色々と試してみなさい」
転倒していたシルバーグラス3が立ち上がってきた。
「……あー、チックショウ。まんまとしてやられたわ。少佐、もう一回やってみてもいいですか?」
「もちろん。時間はまだまだあるからね、とりあえずは二人で色々やってごらん?」
「うーっし、次は負けねえかんな?」
「はい、どこからでもどう……ぞっ!」
今度は不意打ちを仕掛けてみる。さっき先に仕掛けたのはあちらだ、これぐらいの事はしても良いだろう。
次回、チャプター2-6 ブラッド・タイプ
ご期待ください
MaEm
コメント