チャプター2-9 F=mrω^2

チャプター2
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//前回 チャプター2-8 マリオネット 

「まずはとにかく、見つけることを考えようぜ。鬼ごっこと言っても、そもそも見つけられなきゃ話にならないし」
「了解です、という事は、まずは高い所に上がるというのはどうです?」
「賛成、その方が見つけやすいと思う。出力はこっちの方が上なんだし、見つけさえすれば追い付けない事は無いだろ」

そう決めると、まずは芒月を跳躍させる。目指すは正面、一際高いビルの屋上だ。あそこからなら演習場の全体が見渡せるはずだ。あのビルに上るルートはーー

「……あっ、これって?」
「シラハちゃん、どうしたの?」
「いえ、こうやって障害物の屋根伝いに上り下りしていくのって、私たちいつもやってるじゃないですか」
「えっ、ああ!?毎日朝飯の前にやってる奴?」
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Youtubeでrooftoppingと検索すると、色々と面白い動画がたくさん出てきます。まあ多分不法侵入だけど。高所恐怖症でなくても思わずゾクっと来ること請け合いです。閲覧は自己責任で、眠れなくなったといわれても知りません

「フライト08からシルバーグラスの新人2人、ようやく気が付いた?」
「サシバ少尉?」

少尉が通信に割り込んできた。

「朝から毎日二人に第一層を上り下りしてもらっていたのは、そういう事だよ。実際に身体を動かして上下移動の訓練を行う事で、基礎的な体力錬成と同時に次にどう進むかのルートを決定するセンスを磨くのが目的」
「常に最適なルートを選択できる技術を身につけることで……」
「第一層内で実戦になっても素早い移動ができると?」
「正解!生身の身体能力よりもよっぽど高い所まで跳躍できるんだ、あそこにたどり着くくらい余裕でしょ?あの高さからなら少佐も見つけられるはずだから、とりあえずは登ってみるといい」

よし、行動の指針は決まった。あとは実行あるのみだ。あの高さまでたどり着くには……

「まずは左の低い所に登って、そのまま2区画前進。そこから右に跳躍して、駆けあがる。それでどうですか?」
「あぁ、生身なら無理だけど今の俺たちなら行ける!」
「決まりですね、行きましょう!」

TAN、TAN、TAN!

指と手足は操作に意識を向けつつも、芒月の動きをコフィン内でイメージして跳躍する。着地点の確認、跳躍距離の微調整、姿勢制御、思い通りに芒月を操る!

「よし、あと一歩で到着……っと!」

2人同時に着地しようとして、完全に目測が狂う。

目の前に、燕柳が立っている!
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高所に登れば索敵しやすいけど、それは相手も同じだよね

「……ったあ!」

GAGEEEEEEN!!!

レウンの方が一瞬早く反応する。空中で無理矢理姿勢制御を掛け、正面突きを放つ!

「反応は悪くないけど、何度も言うように攻め手が単調!」
「くそっ、まだまだ!」

少佐があっさりと突撃を払いのけ、突き飛ばすように距離を離す。これもブレードのみの接触、有効打に至らない。

遅れて私も着地点を見定める。今降りるべき場所は……少佐の真後ろ!着地と同時に機体を反転させ、左蹴りで突っ込む!

「着地点の見定めは正しいね。でも攻撃方向はもう少し考えた方が良いと思うけど」

完全にこの攻撃を読んでいた少佐が、最小限の動きで私の飛び蹴りを回避する。そして、私の芒月は勢いを殺すことなく突っ込んでいく。具体的に言うと、初撃を払いのけられて二発目を打ち込もうとしていた、シルバーグラス3にーー

(ーーしまっ、避けられない!!!)

GASHAAAAANNNN!!!
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攻撃方向はよく考えましょう。犯人を警官隊がぐるりと囲んで全方向から銃突きつけるシーンとか、絵にはなるけどあれ反対側の味方にも弾が当たって大変危険です

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どうやら、私の芒月は頭から地上に落下し、仰向けに寝ているらしい。上下の重力の感覚からそう判断する。今の機体の状態をイメージしながら、とにかく芒月を正常な状態に立たせる事にした。
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落下時、自動でバランサー制御をして最低限の衝撃吸収、受け身を取ったとしておこう。ブースターで衝撃を吸収したのではなく、あくまで落ち方と姿勢を変えただけだけど。

「……ス4!シルバーグラス4、大丈夫か!?」
「……こちらシルバーグラス4、何とか無事です。落下した時に頭を軽くぶつけただけです」
「良かった……それよりも、さっきはゴメン!まさか少佐があんな風に同士討ちを誘ってくるなんて思わなくて、俺……」
「いえ、私こそごめんなさい。慌てて攻撃して、後の事まで考えていませんでした……
それより、少佐はどこに?」

聞いてはみたが、恐らくいるであろう場所の検討は付いている。少佐はまだ先程のビルの屋上から動いていないはずだ。

「ああ、俺が見ている限りでは動いていない。でも何でわかったの?」
「私たちの芒月の方が、少佐の燕柳よりも勝っている部分は機動力、それに数です。それを封じようと思ったら、どうします?」
「ふーん、機動力を潰すなら狭い所に誘い込むとか?数のほうはわかんないや」
「おそらく、2対1ではなく1対1を2回やるように仕向けてくるんじゃないかと思います。さっきの私たちは、同じ方向からあのビルの屋上に侵入して一人ずつ攻撃したから簡単に躱されてしまいました」
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1対1を2回やるのであれば、下に降りてビルを背にするという方法もある。が、この演習は鬼ごっこなのでこれはやらないだろうとシラハは判断した。ビルの屋上に陣取るのは広くて機動力を殺せそうにないが、早期に発見できるメリットをイスカは優先した。

サブモニターに戦域マップを表示し、レウンと共有させる。指でラインを引いて、先程の侵攻ルートを表示した。

「とすると、挟み撃ちして同時に攻撃するとか?でもさっきみたいにまた同士討ちに持ち込まれるような気もするな。これは鬼ごっこなんだから、不利だと思ったらビルから飛び降りて逃げちまえば良いんだし」
「ええ、なので1つ作戦を考えました。とはいっても、この作戦が本当に実行できるものなのかは正直言って分かりません。というわけでーーフライト08、応答願います」

「こちらフライト08、どうしたの?助言は出来ないけど話聞くだけなら聞いてもいいよ。一体どんな作戦を考えたの?」

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「不可能だ、と言いたい所なんだけどね。おそらく芒月の関節強度でいえば耐えられると思う。ただ、2回目は厳しいだろうね」
「問題はシラハちゃんと俺がタイミングを合わせられるか、正確にその攻撃を正しい角度で出せるかどうか、この2つだよな」

正直、自分でもかなり無茶なことを言っているという自覚はある。が、どうやら2人は乗り気のようだった。どの道、他にいい方法も思いつかない。

「もしミスしたり、躱されたりしたらたぶん2回目は通用しないと思います。逆に言うと、関節の問題は心配ありません。チャンスは1回、大丈夫ですか?」
「良いさ、ここまで来たらもう乗りかかった舟って奴でさ。最後まで付き合うよ」
「まあ、できるだけ頑張ってみな。もししくじって芒月壊したとしても、それはそれでデータにはなるしね。あ、でも修理は手伝ってくれよ?」

よし、そうと決まれば後は実行するのみ。

まずは一回目と同じルートから侵入。上がってくるのは少佐にはバレているだろうとは思うが、一応可能な限り身を隠しながら前進する。この作戦は奇襲が肝だ。こちらの意図は可能な限り隠しておきたい。

「よし、まずはここで良い?」
「はい、あと2歩であのビルまで飛び込める位置。そこで大丈夫です。私の方でタイミングは合わせますから、いつでも好きなときにどうぞ」
「それじゃあ3カウントで行こうか。3、2、1、ゼロ!」

まずはレウンが、それに一瞬遅れてから私が跳躍する。目標正面、チャンスは1回!

「何だ、また二人同じ方向から?懲りないねぇ。まあ良いか、かかっておいで!」

予想通り、少佐は先程のビルの屋上から動いていない。やはり全方位を警戒するのであれば最も高い所に陣取るのが良いという事だろう。ならば挟撃は通用しない、であればあえて一方向から攻撃を集中させる。あと一歩!

「っだあああああぁぁぁ!!!!!」

ブレードを上段から横薙ぎにするように構え、レウンが飛び込む。当然、受けるために少佐もブレードを構えて待ち受ける。あと1秒で接触ーー

「そこです!」

その瞬間、レウンの芒月が逆噴射を掛ける。空中で一瞬だけ静止し、そこに私が飛び込む!タイミングは完璧。あとはここで、

DANG!!!

「「同時に、蹴りを叩きこむ!」」

私は正面、少佐のいる場所に。レウンは真後ろ、私の芒月に。至近距離からの蹴りを放つ。足同士の接触により、急加速。レウンの芒月を蹴り込んだ!が、
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この蹴りでの加速の元ネタはBORUTOの風遁ボルトストリーム(風遁で影分身を加速させて高速で突撃して掌底を叩きこむ技)、および空想科学読本でライダーキックを研究した時の「垂直飛びからどうやって前にキックを放つか?」という問題に対する、仮面ライダー1号と2号が空中で蹴りをぶつけ合い加速するというアイデアから着想を得ました。

(くっ、外れた!右に30cm!)

角度が微妙にズレた。この軌道では、少佐の真横に無防備なままに着地することになる。

(お願い、当たって、当たって!)
「当たってッッッ!!!!」

私の願いが通じたのか、或いはレウンが軌道を強引に動かしたのか。それはわからない。が、空中で軌道が捻じ曲がった。このままなら行ける!
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空中で軌道が変わった理由はまた後で書きます

「……空中で停止させ、蹴りで強引に加速することで防御のタイミングをずらして叩き込む、か。正直あと一瞬気が付くのが遅れたら危なかったかな」

間一髪の所で、燕柳は後方に飛び退いて回避する。

計算通り!・・・・・

「行くぜ、せぇのっ!!!」
「たあぁぁぁぁぁああああ!!!!」

レウンがブレードを真横に全力で振り抜く。その腕から伸びた放電硬化ワイヤー、さらにその先に繋がれた私の芒月ごと!・・・・・・・

「確かこのワイヤー、燕柳2騎ぶら下げて振り回しても切れないんでしたよね!」

全身が遠心力で横に押し付けられる。指一本動かすのすら辛い。が、最後の一撃を加えるべく強引に動かして打撃を入力!
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遠心力の式、高校物理で習いましたか?mrω^2です。要するに、回転半径であるワイヤーが長くて振り回す速度が速く、振り回されるものが重いほど遠心力がキツくなるという意味。吸血騎遣いの血流が制御されていなけれれば、足の方に血液が行ってしまいブラックアウトすると思われます。失神は防げても遠心力に逆らって指を動かせるかはまた別

GYAAAAAAANNN!!!

遠心力と速度を乗せた一撃、相手は空中、たとえ見えていても回避は不可能。しかし、少佐は反応してきた!回避不能と瞬時に判断して、ブレードで私の打撃を弾いて

これで、詰みだチェックメイト。もう打つ手は無い。

「空中加速にワイヤーまで、よく考えたもんだね。面白い!良いよ2人とも!もっとアタシに見せて頂戴!」
「見せたいのは山々なんですけどね、もう終わりなんですよ」
「なーに、もうネタ切れなの?もっと色々とーー」
「いや、違いますよ少佐。俺たちの勝ち、って事っす」

BYEEEEEEN!

「なっ、コレって!?」
「放電硬化ワイヤーは燕柳2騎振り回しても切れない。そうでしたね?」

ビルの上に着地。打撃をブレードで防がれたのと、同時に燕柳の脚に放ったワイヤーを引く。宙吊りにされた燕柳。もう、逃がさない。

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「……っフフフ、ハハハハハ!いや素晴らしい!参った!完璧な作戦!パーフェクト!」
「ありがとうございます。シルバーグラス3が一番いいタイミングで私を振り回してくれたからですよ。あれが少しでも狂っていたら、多分無理でした」
「いや、そもそも俺じゃあんな作戦自体思いつきませんでしたよ。回避を強要しつつの2連続攻撃と見せかけて、最後に罠仕掛けておくなんて」

「さて、基礎的な動作に関しては一通り終了!明日からは実戦任務をこなしてもらう。ハラ括っときなさいよ!でもーー」
「でも、何ですか?」
「その前に隊長命令。昼ごはん!お腹いっぱい食べる事!

次回、チャプター3-1 ディープ・イン・アビス
ご期待ください

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MaEm

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