//【小説レビュー】ユリシーズ・ミッチェル中尉の告白 人を殺すのに銃は不要、言葉とシステムで人を殺す話※追記あり

小説
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気になったネット小説をレビューしようという企画、その3です。何か今までやってきた奴が全部ドンパチ物ですが、今回もそんな感じです。うるせえやい趣味なんだい。最も、ドンパチ物なのは確かですが、今回は若干形式というか、毛色が違います。

作者:人形使い
タイトル:ユリシーズ・ミッチェル中尉の告白(カクヨム版
2018年11月4日完結

作者様コメント

※伊藤計劃先生の「虐殺器官」へのオマージュ作品です。カクヨムコン4短編部門のランキングで総合最高3位・SF現ファ最高1位頂きました。

2020年代、中国とパキスタンに挟まれた小国、ソルディスタン人民共和国では対テロ戦争が続いていた。
次世代型通信システム「BBシステム」を導入し、ソルディスタンに派遣された米軍特殊部隊。
システム導入から間も無く、彼らは現地の市民たちを次々と虐殺した——

対テロ戦争から帰還した米兵との、一万字のインタビュー記録。
5分ほどで読めちゃうSF短編です。

(本作は実在の国家・組織及び現実の諸紛争とは一切関係ありません)

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近年のSFエッセンスを大いに取り込んだ意欲的作品

作者、人形使い氏のコメント通り、故・伊藤計劃氏の作品「虐殺器官」へのオマージュがふんだんに取り込まれた作品です。

他にもMaEmが読んだ印象としては、その伊藤計劃氏が大ファンであった「MGSシリーズ」の「らりるれろ」のシステム(ネタバレ対策で変なこと書いているけど、気になった人は実際にプレイしてみてください)や、日本のサイバーパンクの傑作、DOUBLE//SLASHでも何回か言及している士郎正宗先生の「攻殻機動隊」、それも原作側ではなくアニメ版の「攻殻機動隊SAC」へのリスペクトなんかが大いに含まれているのではないかと感じています。(ハンドルネームも人形使いだしね)

虐殺器官新版 (ハヤカワ文庫) [ 伊藤計劃 ]価格:777円
(2019/5/2 22:22時点)

断片的に語られるインタビューから、貴方は何を想像する?

今作は米軍の情報軍に所属の「ユリシーズ・ミッチェル中尉」と記者のインタビューという形式で綴られており、記者が質問して中尉がそれに答える、という形式になっています。つまり、中尉以外の人物、記者(と、我々読者)が知ることのできる情報というのはミッシェル中尉の話す内容だけという事になります。

そして、この中尉が話している内容がムチャクチャ、一見しただけじゃ正直何言ってんだコイツ?となります(というか作中で記者が「一体何の話をしているんです?」となった)

しかし、中尉は別に戦場でのトラウマで頭がおかしくなってしまったとか、そういうワケでもなさそうです。中尉がホラ吹きや誇大妄想狂でないとしたら、このソルディスタンという国で起きた虐殺は本当の話、この断片的な情報を読者は拾い集め、一体ソルディスタンで何が起きたのか?その時BBシステムには何が起きていたのか?ソルド語とは一体何だったのか?あるいはひょっとすると中尉も既にシステムに呑まれていて、創作でいう所の「信頼できない語り手」という奴になっているのか?

そういった疑問を残したまま、この短編は幕を下ろします。





//【小説レビュー】木曜日には血の雨が降る

……という、何だか投げっぱなし気味なレビューを書いたところで、ここからが本番です。
終わったと思わせて実はこれがプロローグだったという叙述トリックレビュー?というのをやってみたかったんだごめんなさい。この記事のアイキャッチ画像でネタバレしているというのは言わないでくれ。それでは改めて

作者:人形使い
タイトル:
ユリシーズ・ミッチェル中尉の告白木曜日には血の雨が降る(カクヨム版)(なろう版)(ノベプラ版
2019年7月現在、カクヨム版およびなろう版完結済み、ノベプラ版連載中

作者様コメント

紛争地でテロリストと戦うアメリカ軍中尉
いじめで心を閉ざした東京の女子高生

西暦2035年、全く異なる二人の人生が絡み出すとき、史上最悪のテロ『血の木曜日事件』の真相が明らかになる——!!

【長いあらすじ】

 2034年11月9日木曜日、アメリカ全土で20000人の市民が一斉に射殺される「血の木曜日事件」が発生。彼らに銃口を向けたのは、なんと7000人もの米軍軍人たちだった……。

 その約半年後、2035年5月24日木曜日。東京の女子高生、篠崎雪菜のもとに一人の米軍士官が訪ねてきた。彼の名は、ユリシーズ・ミッチェル。

 陸上自衛官だった雪菜の父、篠崎亮平に頼まれて雪菜に会いに来たという彼は、「血の木曜日事件」の数ヶ月前まで、中央アジアの紛争国、「ソルディスタン」に派遣されていたという。

「ソルディスタンには米軍のみならず自衛隊も派遣されていた。俺もリョウヘイ——君の父親とともに任務に当たっていたのさ」

「俺たちソルディスタンで『BBシステム』という最新鋭の通信システムを使用していた。この『BBシステム』こそが、『血の木曜日事件』を引き起こした真犯人だ」

 なぜそんなことを話すのかと問う雪菜に、ユリシーズはこう答えた。

「アオイ・イズミ——君と同じ高校に通う男の子の名前なんだろう?彼の父親、コウイチ・イズミこそ、『BBシステム』の開発者だからだよ」

※ユリシーズと雪菜、二人の視点で交互に進んでいくお話です。全23話予定。

※本作は、拙作『ユリシーズ・ミッチェル中尉の告白』の長編版であり、また『虐殺器官』『MGSV』等のオマージュ作品でもありますが、ストーリー自体は完全にオリジナルのものであり、これら原作をご存知ない方でも十分にお楽しみいただけます。

※本作の内容はフィクションであり、実在する組織・人物・国家等とは一切関係ありません。

短編一本使った伏線?あるいはまた別の世界線?

というわけで、インタビュー形式で描かれた短編、「ユリシーズ・ミッチェル中尉の告白」の前日譚がコチラの作品のようです。ようです、というのは現状作者の人形使い氏のほうからは明確に告白のほうと話が繋がっているという宣言があったわけではなく、あくまで告白の長編版という事しか言われていないからです(もしかするとMaEmが見逃していただけでちゃんと繋がっているのかもしれませんが)

とは言っても、おおまかな世界そのものは変わらないようです。しかし、登場人物が大幅に増えている、ソルディスタンだけでなく日本・東京の女子高生が新たに主人公に設定されている(というよりダブル主人公のようですが)など、状況が大きく変わっています。

さて、先程の短編のインタビューで中尉は真実を語っていたのか?あるいは全て中尉の妄想の産物だったのか?それとも既にBBシステムとソルド語の影響を受けてしまっているのか?短編のほうで散りばめられた伏線をどう拾っていくのか、注目したいところです。

なんでレビュー記事なのにこんな曖昧な事しか書いてないんだよ?

もう少し真面目にレビュー書けって?申し訳ありませんがそれは出来ません。

何故かって?

それはこの作品、「木曜日には血の雨が降る」が2019年5月1日から連載開始されているからです!

書かれていないんだからレビューのしようがないです。というわけで、読者の皆さんも空想妄想を膨らませつつ、ソルディスタンで何が起きたのか、中尉はそこで何を見たのか、一緒に追っていきませんか?

令和初っ端からだいぶヘビィな感じの作品ですが、どのようにストーリーが進んで伏線が回収されていくのか楽しみな作品です。

その他のネット小説レビューはこちらからどうぞ

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MaEm

警告!

本作は2019年7月1日をもって完結いたしました。人形使いさん、連載お疲れ様でした。

というわけで、これより下は「木曜日には血の雨が降る」の読了後の感想を書いていきたいと思います。そういう趣旨なので、ここから先の内容については結末まで含めた「激しいネタバレ要素」
を含みます。まだ最後まで読み終わっていない、あるいはノベプラ版で追っていて、一日ずつ楽しみに読んでいるという方は閲覧非推奨となります。

そうじゃない方は、下をクリックしてお進みください。

Are you ready?

警告はしましたよ。開いたという事はネタバレは気にしなくていいという事ですね?

推理小説じゃなくても、予想が当たるとニヤリとするよね

MaEmがこの記事書いたのが、MaEmが「告白」読了の直後、「木曜日」の連載がちょうど開始したころの事でした。告白のほう読んだ時点で「あっ、人形使いさんたぶんMaEmとおなじコンテンツ食ってきたタイプの人だな?」とピンと来てコンタクトを取り、DOUBLE//SLASHへの感想の掲載許可を頂いたという次第です。

誰かと示し合わせたわけでもない、特定の宗教や思想といったつながりがあるわけでもない不特定多数の集団が一斉に大規模テロを起こす。この展開見た時にMaEmの脳内には笑い男事件がパッと出てきましたもんね。まさかそのままスタンドアローンコンプレックスについての話に結びついてくるとまでは予想してはいませんでしたが、この世界観ならそれも十分あり得る話なんだろうと納得できるだけの説得力を持っていました。

というより、今の現実世界だって起こりえる話、あるいはもう実際に起こっている話ですよコレ。皆さんがこの記事をPCから見てるのかスマホから見てるのかはわかりませんが、これだけ気軽に誰でもネットで情報を発信・受信できる世の中です。ずいぶん昔の話ですが、タイガーマスクを名乗る人物がランドセルを寄付したのが報道されてから、全国各地で示し合わせたわけではないのに似たような寄付活動が活発になったなんて話もあります。

逆に、制御できない正義感というのもあります。これも結構前の話ですが、コンビニのアイスのショーケースに入って写真を撮り投稿、炎上して全国のSNSユーザーからボロックソに叩かれたというようなこともありましたね?

そりゃ勿論、あんなことすれば叩かれるのは当然です。では、叩いた人の中に炎上した本人と以前からの知り合いだという人が一体どれほどいたでしょうか?

誰が指示したわけでもないのに、会ったことも無い人間を親の仇のように日本中のネットユーザーが叩きまくる。別にアイスのケースに入った彼を擁護する気は1ミリもありませんが、こう考えると怖い話ですよね。もう既に、スタンドアローンコンプレックスが架空の世界の話ではなくなってきてる。

ましてや、今作の加奈のよう元々正義感の強いタイプの場合は……ねぇ?

ユリシーズはもうああするしかなかった

上の方で、MaEmは「信頼できない語り手」という話を書いてあります。これも、意図せず確信を付いていたということになるんでしょうかね。結局、彼も感染していたと。

まあ、もし仮にこうなったとしたら選択肢は二つしか残ってませんよね。自決するか、あるいは目と耳を閉じ、口を噤んで孤独に暮らすか。自分と喋った人間、バイホで繋がった人間が次々に発狂して他人を傷つけ始めるかもしれない、あるいは自分もそうなるかもしれないとなったら、これしか選択肢はないと思います。

でも、正直な所これカタが付いたとは思えないんですよね。

エピローグの描写から、少なくとも本編の10年後までは描写されていますが、その間何もなかったとはちょっと考えにくい。言語生命体に対してワクチンだの検疫だので流出を止める方法があるとも思えない。さて、こうなると日本米国ソルディスタンだけの話じゃ済まなくなってきてるのではないでしょうか?

日本には「人の口に戸は立てられぬ」なんて諺があります。我々読者側としてはもはや想像するしかないわけですが、この世界多分相当に酷い事になってるのではないでしょうか。

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